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「おひさっすね!」
勢いよく降ってきた声の方を振り仰ぐと、そこにはあの彼が。
膝を抱えて蹲っている私を見下ろす彼の瞳が、みるみる驚きに変わっていく。
「ひさしぶ、り」
「いやいや。『ひさしぶり』じゃなくって。どうしたんですか!なんかあったんっすか!?」
なんでもない、放っておいてほしい。今の私には君をかまう余裕なんてないのよ。
なのに彼は言う。「泣いてる女性を放っておけるわけない」と。
やっぱりいい子。でもいい子過ぎるわ。
そんなに“いい子”だと、悪い女に騙されるわよ―――私みたいな。
「じゃあ、君が慰めてくれる?」
伸びあがるようにその薄い唇に自分のものを重ねた。
自分が何をしているかなんて考えなかった。
ただ胸が痛くて痛くてたまらなくて、どうにかなりそうで。
この痛みが和らぐなら、毒でも幻でもなんでもいい。
唇に触れる柔らかな感触に、「たすけて」と叫び出したくなる衝動が薄らいだ。
瞼を持ち上げると、目を見開いた彼の顔。
ばかね。こんな女、突き飛ばしてしまえばいいのに。
ほんと、いい子。
合わせた唇を少しだけ浮かして、私は言った。
「一緒につくる?―――夏の思い出」
そして今度はもっと深く彼に口づけた。
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