201人が本棚に入れています
本棚に追加
空蝉
汗も唾液もすべてを交じり合わせ、何度も何度も抱き合った。
夏の終わりの蝉のように、声が枯れるまで啼き続けた。
ハラハラととめどなく零れ落ちる涙を、長い指が優しく拭ってくれる。
優しい子。ごめんね、君を利用して。
捨てられた絶望に泣くんじゃない。
病気が怖くて泣くんじゃない。
これは“女”として生きた自分の為に流す涙。
そして別れを告げる決意の涙。
"思い出"なんて生易しいものじゃない。
これは私は女として生きた証ーーー"うつしみ”の記憶。
もう二度と会うことはないだろう。
彼は利用されただけ。悪い女に騙されただけ。
君には“思い出”になったかな。
ごめんね、優しいおばあちゃん子くん。
幼さの残る寝顔にそっとくちづけを落とし、私は部屋を後にした。
【了】
最初のコメントを投稿しよう!