3。空間図書

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3。空間図書

「ねえ、何か探してるの?」 「絶対手を出すなよ?」 膝を抱えてしばらく傍観していたけれど、止める気配がない。 退屈と言えば退屈。かと言って不満でも無く、きっと心当たりの本があって、探しているのだなと、まるで遠くの景色のように眺めている。 おかげで久しく味わえなかった平和というぬるま湯に、トプンと浸ることができた。 故郷の森の奥には、人知れずコバルトブルーの湧水を湛える泉があってね。 懐かしいわ、程よく温い湧水は深く透き通っていて、光の加減で色を変えた。 時には白く、時にはエメラルドグリーンに。足元には小魚たちが群れて泳いでね。 一方で家主の探し物は一段階上がった。塔や祠の趣きで積み重なっていたはずの本が、満遍なく掻き回された挙げ句に、アタシの足元まで侵食してきて悲惨な光景となっている。 今やアタシの座り位置と朴氏の足場以外全面、本を撒き散らした格好だ。これじゃあ秘境のリゾートというか、ゴミ屋敷だわね……。 男はなお精力的に動き続けたが、散らかし作業がピタリと止んだ。 三冊の古書を片手に、畳に散らばった本を払い、半畳ほどの空間を作る。そこに小脇の本を並べるのか。 「なあに? 儀式でも始めるの? あるいは占い。タロット占いみたいな。占いならアタシも」 「おいおい手を出すな」 「じゃあ」 「手を出すなっつったら、足も出すなということ。お前行儀悪いぞ」 「そうだった、ねえねえ」 「手も足も出すな、つまり口も出すな。いいか、理解しろ。そして応用しろ。頭だろうが尻だろうがその他諸々を出すんじゃねえ」 戯れてみたかっただけだ。なのにポーズ決めてビシッと指をさす。 ハイハイ、頼まれたって胸も出しませんよ、どうせ息も吐き出しちゃ駄目なんでしょ。思い切り頬を膨らませるのは、お約束。 本は一冊ずつ丁寧に、表紙を天井に向けて置かれていく。 一冊めは、色褪せた青い背景で、赤いワンピースの少女がトランプに襲われている。 二冊めは、擬人化した真っ赤な本にトグロを巻いた蛇が一つ目を縁取る。大きく開いた青い口と、頬や顎、開きかけのページからも幻獣が湧いておどろおどろしい。 三冊めは、一面オレンジ色の中心を丸く切り抜いた空白に、4人の子と動物が円周に沿って配置されていた。 「ぷはっ。ねえってば。せめて何なのかくらい教えてほしいわ」 「そうだな」 拾っといて、なのに全然構ってくれないって酷くない? しかも行動制限。少しは駄々をこねても許されるべきだ、世間の女子たちはきっと共感してくれる。 ただしアタシ基準の「少し」は範囲が広い。 「ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ」 「待たせたな。さあ話をしよう。お前は何者だ?」 □
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