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言い負かすことができて少し良い気分になった。ついでに、ライムの切れ端を頂戴しようとタンブラーへと手を伸ばす。パーメオの長い指が小さな鞭のようにしなった。むげに払われて行き場を失った私の手は、飲みかけのマティーニを運ぶつもりだった。なのに器用さなんてとっくに無い。
もうそろそろ自覚しようか、酔いがまわっている。悟られるのがシャクで、ずっと平静を装っているだけで。
「怒っちゃいました?」
「他人の故郷を馬鹿にする女はモテない説」
「根拠あります? 私、そこそこイケてないかなあ」
「アンタが一人でヤケ酒飲んでんのが何よりの証拠だわね」
確かに図星かもしれなかった。そろそろ自覚しようか、私には谷さんしかいないと。
「じゃあ他人の彼氏を馬鹿にする女は何なんですか」
「やだアタシ? アンタのために貶してやってるのにさ、モテないアンタのために」
「アンタって誰ですか」
「失礼な娘だわね、店の中ご覧なさい。アンタの他に誰かいる? アンタはアンタ、名乗れるほどのモノがあれば別だけど」
「失礼はどっちなんだか。久留戸仁美ですよ」
「あらあら。呂律が回ってないわ」
「くると、ひとみ」
「ふーん。名前だけは、立派だわねえ」
パーメオは私の顔をまじまじと覗き込んだ。
「だけど言われてみればヒトミは綺麗な目をしてる。……本名?」
「もちろん」
証明しなければとムキになった酔っぱらい女は、バッグの口を大きく開けた。
「あれれれ?」
どうしたって精細に欠けている。肝心な免許証がすぐに見つからない。
仕方ないので中身を一つ一つテーブルに並べることにした。
携帯、財布、小銭入れ、カードケース、キーケース、ポーチ、ハンドタオル、ハンドクリーム、日焼け止め、リップクリーム、フリスク、絆創膏、目薬、頭痛薬、歯ブラシセット、折り畳み傘、冷房対策カーディガン、、、
「やば。どっかに落としたかな」
「ヒトミは荷物が多すぎなのよ。これじゃあまるで家出少女」
「今日は水筒がないから軽いんです」
「はいはい、いいこいいこ。隠しごとできない性分だわねえ。よしよしよーくわかった。わかったから早く片付けなさい、邪魔」
バッグにもたもたとアイテムを放り込む私。これでも精一杯がんばっている。アルコール特有の多幸感に支配され、子ども扱いをされるのも悪い気がしなくなってしまった。
「だけどねえ、ヒトミ?」
「ん?」
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