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1。夢の島
アタシは「幸福の夜明け」を探している。文字通り鵜の目鷹の目、でも今は、とにかく頭が痛い。
持っていた林檎にかぶりつく。生温い林檎がシャリシャリと清涼感のある音をたてた。それでもこめかみと首、それぞれを辿って鈍い吐き気が襲ってくる。
どうにかならないか。おまけにカラスたちが遠巻きにアタシを狙っている。
しょうがないのでアスファルトに林檎を転がしてみる。
すると案の定、カラスが一斉に群がった。
だけどなけなしの朝食は醜い争いを生み、飢えた一羽がアタシに目を向けた。
そもそも背もたれにしているのは電信柱、真隣には袋パンパンに詰まった生ゴミ。餌になるのはゴミ袋そっくりにうずくまるアタシかもしれないわね。
その時、カラスが逃げた。
追い払ったのは眉を描き損ねたおばさんが一人、あともう一人いる。
どちらも怪訝な顔でアタシの隣にゴミを積み上げ、足早く去って行った。
知ってるよ。みんなアタシを見て見ぬふりして見えない場所で聞こえよがしに噂をする。
ほらあのコ。やあねえ。何やってるのかしらねえ。こわいわねえ。
全くその通りだ。アタシはまた捨てられた。
これでも上京してすぐはタワーマンションに住んでいた。ところが捨てられるたびにおもしろいように階層が低くなっていく。転落人生、20階、5階、1階まで落ちぶれたら次はどうなるって?
ついさっきまで「彼氏」だった男の家は、トタン屋根があるだけマシの、風呂もないバラックだった。貧民窟を這いつくばって舐めるような、そんな男に捨てられればもう、地べたのゴミ置き場しか居場所がない。
かといってこんな場所を住処にする気は全く。
腐敗臭にはうんざりするし、カラスに啄まれる前にはおいおい立ち上がって、次の寝ぐらを探しに行く。
……はずだった。
天気もいいし、今朝はとりわけ頭が痛くて、どうにも身体が動かないのよね。
ゴミ回収車に乗せてもらうつもりなんて、微塵もないんだから。
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