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第一話:二十歳からはじまる ~昼下がり①
目の前のソファに座る女性は、大そう不機嫌な様子だった。店に足を踏み入れてからずっと。
参ったなぁ。
有明は首を傾げてかすかに笑いながら、その表情をうかがう。
同級生の間でも一番の評判のカフェに連れてきたつもりだった。ゆっくり話せて、駅からも近い。土曜日の昼間にしては照明がやや薄暗く、木の枠組みでできた天井やインテリアから落ち着いた雰囲気が漂う。自分より年上の異性にも気に入ってもらえる場所だと確信していたのに。
既に成人して職を持っていても、化粧っ気が少なく、髪は真っ黒でシンプルな縁なし眼鏡。重たげな二本のおさげを垂らした女性を、有明はもう一度興味深く見つめ直した。
「私からお話しできることなど、これ以上何もありませんので」
硬質な声で告げて、乱雑にコーヒーカップをソーサに戻した女性は「ではさようなら」とハンドバッグを手に、立ち去ろうとする。紺色のワンピースでもそもそと動く姿は、さながら年老いた魔女のようだ。
「まあ待ってください、もう少し僕とお話ししましょうよ。あ、このお店アップルパイがおいしいらしいです。一つ食べていきませんか」
「結構です。午後から仕事がありますので」
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