11人が本棚に入れています
本棚に追加
有明は追いすがるように呼ぶ。
「阪本めぐるさん」
「だから、どうして私の名前を。街なかでフルネームを呼ばないでもらえますか」
「言ったでしょう。『僕ら』はなんでも知っている。あなたの本名を調べ上げることなんて造作もない」
「気持ち悪い。この個人情報時代に」
「阪本めぐるさん」
「呼ぶなっつってんでしょこのクソガキ」
「おや、さっそく本性が垣間見えたかな。おもしろい」
「高校生なら私より二、三歳下でしょ? すかして大人ぶってんじゃないわよ。こんなね真っ昼間のカフェで人生の先輩を脅迫しようとか、きょうびのガキは本当にどうかしてる」
めぐるはすっかり声を荒らげた。極力おだやかに接していた有明の方が、面食らうほどに。
彼女はよほど緊張して、警戒していると見える。周囲の席でたのしげに語らい、会話を弾ませていた男女たちがまばらに振り返った。いけない、注目を集めている。別れ話のもつれか何かだと思われているようだ。
こめかみを押さえていた有明は若干渋い顔つきになって、殺気立ったままの魔女に促した。
最初のコメントを投稿しよう!