第一話:二十歳からはじまる ~昼下がり①

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 有明は追いすがるように呼ぶ。 「阪本(さかもと)めぐるさん」 「だから、どうして私の名前を。街なかでフルネームを呼ばないでもらえますか」 「言ったでしょう。『僕ら』はなんでも知っている。あなたの本名を調べ上げることなんて造作もない」 「気持ち悪い。この個人情報時代に」 「阪本めぐるさん」 「呼ぶなっつってんでしょこのクソガキ」 「おや、さっそく本性が垣間見えたかな。おもしろい」 「高校生なら私より二、三歳下でしょ? すかして大人ぶってんじゃないわよ。こんなね真っ昼間のカフェで人生の先輩を脅迫しようとか、きょうびのガキは本当にどうかしてる」    めぐるはすっかり声を荒らげた。極力おだやかに接していた有明の方が、面食らうほどに。  彼女はよほど緊張して、警戒していると見える。周囲の席でたのしげに語らい、会話を弾ませていた男女たちがまばらに振り返った。いけない、注目を集めている。別れ話のもつれか何かだと思われているようだ。  こめかみを押さえていた有明は若干渋い顔つきになって、殺気立ったままの魔女に促した。
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