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プロローグ
もうだめだ。有明は思った。
天が地に。地は天に。夜の常闇の中を吹き飛ばされ、目まぐるしく頭と足の位置が入れ替わる。
高二男子として標準的なはずの身体は、まるで紙きれのように軽々と宙を舞った。
風圧にもてあそばれ、四肢の自由がきかない。
地面に叩きつけられる心配だけはないと知りながら、両腕両足が意思を取り戻したかのように懸命にもがいた。小さな小さな、目的の物を探した。
満月の下、強風に勝てず全身が完全な横倒しになった時、視界の隅で何かが銀色の光を放った。
有明は歯を食いしばって右腕を伸ばした。が、無情にも光は垂直に落ちてゆく。真下にある、寝静まった住宅街に吸い込まれてゆく。重力を得てぐんぐん、ぐんぐん、落ちてゆく。
ここまで、か―――
銀色と自分との距離が開き切り、有明は悟った。運命の奔流に身を委ねようと、目を閉ざそうとしたまさにその瞬間。
再び押し広げた二つの瞳に、
火花、雷、爆発 いずれでもない物が煌々と輝いた。
それは地上に到達した落下物が解き放ったとおぼしき、巨大な十字の、真白き閃光だった。
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