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陽炎
八月半ば。照りつける太陽が完全になりを潜めた深夜。
コンビニで買ったコーラ味の缶酎ハイを、ほとんどヤケクソであおりつつ、俺は家までの道のりをのそのそ歩いていた。
干上がりそうなほどの直射日光はないが、その代わり風一つ吹かない。アスファルトにこもった熱と澱んだ湿気が全身にまとわりつく。
不快感を押し流すべく勢いよくあおった缶は、いつの間にか生温くなっていた。
(はぁ……マジ悪い冗談か、てんだよ……)
つい一時間ほど前のこと。
俺は三ヶ月ほど前から付き合っていたカノジョに別れを切り出された。
理由はよくあるやつ。『やっぱりあなたとは合わないみたい』だと。
カノジョ持ちの初めての夏に気合とテンションを上げまくりだった俺は、肩透かしを食らったと言うか、打ちのめされたと言うべきか。
とにかくその元カノの言葉に、恋心も期待も何もかも全部どこかへ飛んで行った。まるで気が抜けたこの酎ハイのみたいに、温くて不味くて飲めたもんじゃない。
夏らしい浮かれた予定が全部パーになった俺には、明日からバイトに勤しむくらいしかすることがない。
「くっそ、……ありえねー!」
吐き出した言葉の代わりに缶酎ハイの残りをゴクゴクと飲み込んで、空いた缶を腹立ちまぎれに蹴っ飛ばした。八つ当たりされた缶は、明後日の方向へ転がって行った。
「あっちゃ~……まったくもう、どこいったんだ⁉」
自分で蹴っておきながら、被害者の空き缶に文句を垂れる。ぶつぶつ言いながら、公園の入り口脇の小道に足を踏み込んだ。
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