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転がった缶を追いかけた俺の目に、公園のベンチが目に入る。そのすぐ横、街灯が作る灯りの枠から少し外れた場所に、暗闇にぼわっと浮かび上がっように青白く光るものがあった。
「ぅわっ、」
思わず声と肩が上がる。
おばけかと思ったその物体は、良く見ると女の人のようだ。長い髪を垂らしてその場に蹲っている。
「どうかしたんすか?具合でもわる、」
おそるおそる掛けた声に、その人は顔を上げた。
(わっ、きれいなひと……)
長い睫毛で縁取られた切れ長の瞳。上下のバランスの良い薄い唇。スッと筋の通った鼻。真っ直ぐ伸びた長い髪。細面の顔が白い服と相まって、儚げな雰囲気を漂わせている。
真夏の夜の公園に、こんな美女が落ちているだろうか。
(幻覚見るほど酔ってんのか、俺……)
思わず目をこすっていたら、急にそのひとが顔を歪ませた。
「お姉さん、顔真っ白じゃん」
「……なんでもないわ……放っておいて」
「いやいやいやいや。ここでもし、言葉通りにお姉さんを放って帰ったとしたら、一晩中パトカーとか救急車のサイレンが鳴らないか、気になっておちおち寝てらんねぇじゃんか」
「……優しいのね、あなた」
「いや、別に?困ってる人を助けるのは、人として当たり前に出来なきゃいけないことだって―――いっつも田舎のばあちゃんに言われて育ったし」
「……っふふ、おばあちゃん子なのね」
「いや、ばあちゃんが怖かっただけ………っていうか、そんなことより、ほんと大丈夫?救急車呼ぼうか?」
「大丈夫よ?ちょっと歩き疲れただけなの。一時間歩いただけでこの有様。年かしら……」
「年って……俺とそんなに変わんないでしょ?てか、一時間も歩いたの⁉」
「ええ」
「それって………途中でなんか飲んだりした?」
「ん?いいえ?」
「あっちゃ~、そりゃダメだって」
おれは手に提げていたコンビニの袋の中から、酎ハイと一緒に買ったミネラルウォーターを取り出した。
「はい。これ飲んで」
「え、」
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