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「一時間も歩いてたのに、何も飲んでないんじゃ、熱中症になりかけてんじゃない?夜だからって油断しちゃダメなんだって」
「えっと、でも……」
「これ、やっすいやつだし気にしないで。ほら早く」
手に持っていたペットボトルをお姉さんの目の前にずいっと押し出すと、彼女は少し躊躇いながら受け取った。
キャップを回してペットボトルに口をつける。
一口飲んだ後、彼女は黙ってそのままもう一度ペットボトルを傾けたる。ペットボトルがかいた汗が、彼女が傾けた拍子に雫がポタリと地面に落ちた。
「―――美味しかった。ありがとう」
ペットボトルの中身を一気に半分ほど飲んだ彼女は、俺を見上げて言う。
「生き返ったことだし、そろそろ帰るわ」
彼女が立ち上がった拍子に、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。その人は、手のひら一つ分下から俺を見上げてふわりと微笑んだ。
「じゃあね。ありがと、おばあちゃん子くん」
柔らかな微笑みはまるで、絵画に出てくる聖女のようで。
ドクンと心臓が鳴って、一気に体温が上がった。
彼女はひらりと手を振って、公園の向こう側へ消えて行った。
何となく彼女の後姿が見えなってからも、俺は公園の向こう側を見続けていた。
「てか、おばあちゃん子って……」
去り際に言われた呼び名を思い出して、今更ながら微妙な気持ちになる。眉間にシワを寄せた俺は、自分も家に帰ろうと公園を後にした。
この出会いが、俺にとって忘れられない夏になるとも知らず―――
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