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「おひさっすね!どうしたんっすか、また小銭でもぶちまけて、」
俺の声に振り向いた彼女に、俺は声を呑んだ。
振り向いた彼女の顔は、街灯の下でも分かるほど青白く、その瞳は真っ赤に腫れていた。
「……ひさしぶ、り」
「いやいや。『ひさしぶり』じゃなくって。どうしたんですか!なんかあったんっすか!?」
「なんでも、ない」
「なんでもないって感じじゃないっすよ」
「いいの……放っておいて」
無表情でそう言うと、彼女は俺から顔を逸らした。
「放っておいてって……泣いてる女性を放っておけるわけないじゃないですか」
「………優しいのね、おばあちゃん子くんは」
彼女はくすっと小さく笑って顔を上げた。
そしてあの“泣くのに失敗したような顔”で微笑みながら言った。
「じゃあ、君が慰めてくれる?」
「え、」
意味が分からず固まった。その一瞬の隙を見計らったように、彼女の唇が俺のそれに重なった。
見開いたままの俺の目に、彼女の白い顔がめいっぱい映る。長い睫毛がかすかに震えていた。
彼女は、ぴったりと重ね合わせていた唇を少しだけ離し、かすかに先を触れ合わせながら囁いた。
「一緒につくる?―――夏の思い出」
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