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「あれ? 紗紀子さん? 浮かない顏ですね」
「予感がする」
「は?」
「昨日会ったばかりなのに。こんなこと初めてだよ。悪い予感しかしない」
「またまたー。何言ってんですか! ラブラブな彼氏が急に会いたいとかって、ラブラブな証拠じゃないですか。のろけですか」
違うんだよ、お嬢さん。
こういう呼び出しは往々にして別れ話の前触れなんだよ。そうでなければ金貸して、とかね。昨日の様子からしてそれはない。
ということは、
「女かあ」
「へ?」
今夜は修羅場かもしれない。
デートなわけではなさそうだから、会社帰りにそのまま待ち合わせのファミレスに向かった。
思った通り、祐介の隣には彼よりもっと若く見える女の子が座っていた。
「えーと、はじめまして?」
話のとっかかりに一応挨拶した私に、その子は凄い目を向けてくる。あらら、可愛い顔が台無し。
姿を見たときから見当はついていた。
祐介の同期入社のメンバーの中に一人だけ短大卒の女の子がいて、男子から姫って呼ばれてチヤホヤされてるって聞いたことがある。
どうやら祐介もチヤホヤしていたひとりのようだ。まあ仕方ない。男なんてそんなもんだよ。
「祐介さんと別れてください」
あらら、単刀直入だな。嫌いじゃないけど。
「彼は私と付き合いたいんです」
ほう。それは初耳だ。
「あなたは邪魔なんです。ここで彼と別れてください」
精一杯凄みを利かせて睨んでくる彼女から視線を流して、私は隣の祐介を見る。首が曲がってしまうんじゃないかと思うほど顔を俯けている。心なしか目元が光っているような。
人生初の修羅場かね? まあ、別れるくらいやぶさかではないけれど。
「あなたみたいなオバサン好きなわけないじゃないですか」
なんつった今。これは怒っていいよね、ワタシ。
穏便に事をすませようと思ってたところなのに、なんでこう一言多いかな、若い子は。
黙ってられないんだろうな。威嚇するのに精一杯なんだろうな。
あのね、私みたいなオバサンがあんたみたいなコドモ相手に本気になるわけないでしょうが。
思ったけど教えてあげる義理はない。
私は黙ってスマホを取り出してリストというリストから祐介の名前を消した。
「これでいい?」
彼女は、じとっと目を細めて私を睨み続けたままこくんと頷く。
祐介は相変わらず俯いたままだ。
「そんじゃ、サヨナラ」
食事もしないで水だけ飲んでファミレスを出た。
はあ、何やってんだか。
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