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「……ごめん、イリーナ」
シュレインは初めて見るような苦々しい顔で告げた。
「君を傷つけてしまうのはわかっている。それでも、俺は何度でも言う。今すぐこの家を出て行ってくれ。そうしないと……」
「なるほど?あんた達でイチャつくためには、あたくしの存在が邪魔ってことなのね?そういうことなのね!?」
「違う!イリーナ、聞いてくれ、俺達はっ……!」
「聞きたくない!聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくないっ……あんた達、裏切り者の話なんて!!」
美しい自分がこんなにも悲鳴を上げて泣き叫んでいるのに、何故だか誰も駆けつけてくる気配がない。目の前の美しい男と忌々しい女は、悲しげな表情でこちらを見るばかり。
ふざけるな、と思った。被害者面するな。今まさに、自分をこの家から追い出そうとしている加害者は誰なん織だと言いたい。今日まで己がこの家に相応しい令嬢となるために、どれほどの苦労と勉学に励んできたのかも知らないで!
「いいでしょう、出て行ってあげるわよ。あたくしもあんた達のクズみたいな顔なんてもう二度と見たくないもの……!」
自分がもう少し品のない人間なら、きっと目の前の男女に唾の一つも吐きかけていたことだろう。イリーナは彼らを射殺さんばかりに睨みつけると、そのまま踵を返して早足で廊下を歩き始めた。目指す先は、当然自分の自室である。追い出されて住む宛など何処にもないが、行く宛ならばないわけではない。最低限の荷物をまとめて、あの場所へ向かおうと考えていた。
即ち――伝説の、あの悪魔がいる湖へ。
――あたくしを裏切ったこと、後悔させてあげるわ!
悪役だの、ゲスだの、そう思いたければ思えばいいと思った。
自分にとっては裏切り者の彼らの方が、百倍忌々しい存在に違いなかったのだから。
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