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――すっかり忘れてた……ほんっとに忘れてたわ。あたくしじゃないのよ、アガサにしてくれってお願いしたの!
元々。イリーナは、“美人な若い女”というものがだいっきらいである。同性として、多少なりに反発するのは当然といえば当然だ。自分の美に自信を持っている女も、自分の美に自覚がないフリをしている天然ぶりっ子女も大嫌いである。メイドといえば、住み込みでこの屋敷で働くことになる存在。場合によっては、彼女達と一緒に人前に出ることもあるのが自分である。
そんな時、自分の美しさを引き立てる程度の容姿レベルで、かつ極端な不細工ではないというのが最も重要なことなのだ。みすぼらしさはあってもいいが、不潔であるのもいけない。当然、キラキラと光り輝くまでの美女(いやどうあがいても自分より美しい女などいるはずもないけれど!)などもってのほかなのである。
そういえば前回のメイド募集の時にも似たような状況だったんだっけか、とイリーナはため息をついた。自分の気に入る容姿のメイド以外を叩き落としていたら、候補者が殆ど残らなくなってしまったというオチなのである。
――……改めて見ると今回の候補者ひっどいわね!?選択の余地がないじゃないの!
イリーナは、ずらりと椅子に座った娘達を見て頭を抱えた。
絶対元娼婦だろ、と思うくらいにケバい化粧をし、胸元が開いた服を着た女が二人。
いつ洗ったのかもわからないボロボロの服に、シラミがはらはらと落ちそうな長い髪の女が一人。
その女と比べればはるかにマシな服装、清潔感を保ってはいるが。着ているワンピースがはじけそうなくらいに太り、さっきから座っている椅子をみしみしと鳴らせている女が一人。
そして、最後の一人がアガサ。彼女だけは地味だがまともなワンピースを着て、そばかすがあって美人からは遠いものの清潔感は充分に保った髪型と肌をしている。
――せ、選択の余地がねええ!!
「お、お父様!」
やや青ざめて椅子に座っている父の傍に行き、こっそり耳打ちをする。
「ちょっとこれどういうことですの!?いくらなんでもその、候補者のレベルひっくすぎやしませんこと!?ていうか、殆どの者は屋敷に入れる前に門前払いしても問題ないレベルだと思いますわよ!?」
「イリーナ。これ、お前のせいだからな」
「へ?」
慌てて忠告するイリーナに、父は呆れてジト目を向けてきた。
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