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「以前のメイド採用試験の時、お前少しでも見目が綺麗な女は片っ端からこき下ろして無理やり辞退させただろう……すっかり噂が広まったせいで、我が家はいくら求人を出してもちっともメイドが集まらなくなってしまったんだぞ。しまいに街では“マルティウス伯爵家はブスなら採用してもらえる”もしくは“家長の愛人になれば採用してもらえる”なんて不名誉な噂まで流れとる始末だ。そりゃ嫌でもこうなるだろう、どうしてくれる」
あれ、ひょっとして、ひょっとしなくても自業自得?イリーナが固まった時、バキ、と嫌な音がした。恐る恐る面接待ちの彼女達を見ると。デブデブのデブな候補者の女が、思い切り後ろにひっくり返る光景を目にしてしまう。しかも大又開きでひっくり返ったがために、見たくもない汗が大量に染み込んだパンツをもろに目撃することになった。彼女が座っていたはずの椅子は、重すぎる体重に耐え切れずに木っ端微塵の有様である。
あの椅子、百キロくらいには耐えられるように設計してあったんじゃなかったっけ、と冷や汗をかくイリーナ。とりあえず、飛んできた木屑の類を、しれっと綺麗に避けて、かつ距離を取っているアガサが憎たらしくてたまらない。
「……お父様」
これは一体、どう対処すればいいのやら。とりあえず、言うべきことは言わなければならない。
「……とりあえず、あの候補者は……ダメですわ。座るたびに、我が家の椅子を破壊されてはたまりませんもの」
アガサだけはナシ!こいつだけは採用したくない!とてもそんなことが言い出せる空気ではなかった。結局同じ日に戻っても、イリーナはアガサの採用を食い止めることができなかったのである。
元の世界の三年前と同じように、我が家に務めることになってしまったアガサ。あのメンツの中では一番マシに見えるのだからもうどうしようもない。父もアガサだけは採用しようと決めていたようだがら、イリーナがどうこう言うことはできなかったのである。
――失敗じゃないの、もー!!ああ、こんなことになるなら、悪魔にもっと前の時間まで戻してもらうべきでしたわ!とりあえず、前のメイド採用試験の時まで!!
残念ながら今更そんなことを言っても完全に後の祭りである。
結局また三年間、あの不細工女の顔を見ることになってしまうのか。そう思ったら憂鬱で仕方なかった。こうなったら、やるべきことは一つである。
――あの女が自分からやめたいって言い出すように……徹底的に嫌がらせしてやるんだからあ!
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