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プロローグ
ちいさな偶然だった。
目の前にまるまっていた白い猫が「みゃぁーーあ」とゆっくりないて、女生徒は足をとめた。
どのくらい歩いただろうか。家に帰ろうとしていたはずが見渡すと見慣れない町並みだった。その歩くようすは異様だった。車が走る側と人が歩く側をわける白い線のうえを綱渡りをするようにゆらゆらと揺れ、瞳はどこかを見ていた。
「みゃぁーーあ」とないた猫がいたのは白い線の終点だった。立ち止まらなければスピードを上げて、たったいま目の前を走り去った大型バイクにひかれていたことだろう。
その白い猫は驚いたのか意図があるのか、口にくわえていた草花を白い線の終点に置いていなくなった。その草花に見覚えがあったが名前は知らなかった。町中のいたるところで、ちいさな花をつけている道ばたの草だ。
全てを失ったと思っていた手には名前も知らない草。ちいさな花はよく見ると可憐で強かった。草花をうけとって、女生徒はしっかりとした足取りで家路をめざした。
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