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フランボワーズの部分をひと掬いして、蓮の口元に差し出す。細くなっていた目がもっとなくなって、プラスチックスプーンの先端が蓮の口の中に消えた。
「あー、やっぱりうんまい。ありがと」
ご馳走してもらったのはあたしのほうなのに、変なやつだ。返ってきたスプーンでピーチのほうも掬ってやったが、すでに蓮はカメラを構えようとしていた。
「ピーチはいらないの?」
「え、くれるの?」
「だって、ひと口って言ってたじゃん。いらないなら、いいけど」
差し出したスプーンを引っ込めようとしたら、「いる! 待って」と手を掴まれて、そのまま奪われた。あたしの手首を握ったまま、蓮はまた嬉しそうに頬を緩める。痛くはないけど、熱い。それはきっと、夏だから。
「……ピーチも"うんまい"?」
「うんまい。ほら、どんどん食べないと溶けちゃうよ」
ベンチの端っこに逃げて、アイスを口に含んだ。喉の奥にすうっと冷たさが下りてくる。夏は恋の季節、とか言うけどさ、この暑さで脳が誤作動起こしてるだけなんだよ。でも、人を好きになること自体が脳の誤作動だとも思う。制御不能になるあの情動は、何度経験しても慣れない。
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