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「ユウ?」
ついに幻聴が聞こえたと思った。躊躇いながら振り返ると、ずっと、ずっと会いたかった人がそこにいた。
「やっぱりユウだ」
蓮のことを思い出せなくなってきたと思ったのに。彼の声を聞いた途端、彼の顔を見た途端、しゅわりしゅわりと心が甘いサイダーで満たされるような感覚。
「どうして」
「どうしてって……迎えに来た。ユウが写真展来てくれないから。今日が最終日なんだけど」
「そんなの、知らない」
「言わなかったっけ?」
もしかして、別れ際に言っていたのはこのことだったのだろうか。寝起きの口約束が有効だと思うほうがおかしい、けど。
「もっと早く来てくれてもよかったのに」
「そうしたかったんだけど、準備で忙しくて。ごめん」
蓮に手を伸ばすと、惚けたような顔で首を傾げられる。
「バカ。早く連れてってよ」
蓮の手を握る。触れてほしいだなんて、待っているだけじゃ、ダメだ。指咥えて待ってたって何も変わらない。
蓮。あたし、蓮のことが好きだ。
この気持ちを伝えないまま、ひと夏の思い出になんかしたくない。
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