しゅわりしゅわりと

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 蓮に続いて会場内に足を踏み入れる。すでに展示時間が終わってしまったらしく、蓮はスタッフに何度も頭を下げた。 「これ、全部蓮が撮ったの?」 「うん、そうだよ」  蓮が綺麗だと、美しいと思って切り取ったその瞬間がここにあるんだ。これが、蓮が見てきた世界。 「綺麗……」  上手に言葉で感想を伝えたかったけれど、うまく表現できない。だけど。 「好き」 「……ありがと」 「その、写真がね」 「うん、ありがと」 「…………」  蓮は、あたしにこの写真展を見せたくて会いに来たって言った。じゃあ、ここから出たら、もう二度と会うことはないのかもしれない。  それなら。それなら。 「蓮」  蓮の顔を引き寄せて、唇を合わせた。一秒ほど重なったその部分は、同じ温度になる。 「あたし、蓮のことが好き」 「一度会っただけの男について来ちゃうなんて、心配だなあ」 「それは、蓮だから」 「嬉しいけど、俺、たぶんユウが想像しているような紳士じゃないよ」  蓮の香りに、体温に包まれる。海みたいな香りが濃くなって、唇を塞がれた。長い長い口づけに、眩暈がする。薄く目をひらくと、蓮もあたしのことを見ていた。あまり見たことのない表情(かお)だ。いつの間にか『僕』じゃなくて『俺』に変わっていた一人称。あたしの知らない蓮がまだまだいるんだ。だけど、その全部を愛おしく思える気がするんだ。  それは、脳の誤作動のせいかもしれない。  それでもいい。それで、いいんだ。
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