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手切れ金のように渡された今月分の給料。このまま貰えないよりはいいんだけど。茶封筒の中身は結構分厚くて、あたしがいなくなって困るのは店のほうなのにな、とか強がってみても、行き場のない悔しさが左右の目から零れ落ちてくる。
お金に困ってバイトを始めたわけじゃなくて、暇つぶしにやっていただけだった。大学にも仲が良いと言える友達なんていないから、バイトの予定を削除したら、八月の予定はほとんど真っ白になってしまった。
……この予定もなしか。
彼と海に行く予定だった。柄にもなくピンク色に設定していたその予定の上で、ぐるぐると彷徨わせていた人差し指を溜息とともに落とす。躊躇いも容赦もなく、その予定は画面から消え去った。別に、いらない。こんなの。
目が痛くなるほどの白い陽射し。立っているだけなのに首筋に汗が流れてくる。薄曇りのあたしの心とは正反対の濁りのないコバルトブルーの空は、否が応でも夏を主張してくる。まだ半分も飲んでいないのに、すでに温くなってしまったサイダーは炭酸も抜けてただの甘ったるい水だ。キャップを開ける前のあたしのわくわくを返してよ。
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