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「ちょっと、また――」
掴みかかろうとしてよろめいたあたしは、その男に抱き留められた。さっきよりも匂いを近くに感じる。見上げると、彼は少し困ったような顔で笑っていた。
「ごめん、今のは僕が悪かった。でも、手が勝手にさ。君ってとっても魅力的だから。綺麗なものは写真に残しておきたいんだ。そういう性分なの。わかる?」
わかんないよ。何言ってるのこの人は。だけど、悪い人にも見えない。……なんて、善悪を見極めるほどこいつのことなんか知らないけど。
「その写真、どうするんですか?」
「うーん、どうしよう。写真展で飾ったりとかはさすがにまずいよね?」
焦げ茶色の瞳にあたしを映して、心底残念がっているような顔を見せてそんなことを言う。写真展って、この人結構すごい人? 少しだけ、興味が湧いた。
「さっきの後ろ姿のやつなら、別にいいけど」
「本当に? ありがとう」
ぎゅっと抱きしめられる。こいつは距離感がおかしいやつなんだ。いちいち反応するときっと疲れるやつだ。不覚にも跳ねた心臓を宥めるように言い聞かせる。
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