夏の海と脳の誤作動

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 胸ポケットから手のひらサイズのもの――名刺を取り出して見せてくる。 「僕、(れん)っていいます。君は?」  写真家、花村(はなむら)蓮、と書いてある。年齢不詳な外見だけど、ちゃんと仕事をしている大人ってことか。 「……ユウ」  本当は"優香(ゆうか)"だけど。なんだかそのまま教えてしまうのはいけない気がして、少しだけ抵抗してみた。 「じゃあさ、ユウ。お礼にアイスごちそうするよ。暑いでしょ。うんまいよ」  蓮は返事もしていないのに背中を見せて歩き始める。(ここ)にはよく来るのだろうか。ビーチサンダルでぺたぺたと歩くその後ろ姿を追いかける。 ……"うんまいよ"って。ちょっと可愛い。  ふふっと笑うと蓮が振り返る。まだ気を許したわけじゃない、と睨みつけると、今度は蓮が笑う。 「ユウって野良猫みたい。早く懐いてくれると嬉しいんだけど。ほら、早くおいで」  優しい声で手招きされて、つい心を許してしまいそうになる。まあ、でも。"うんまい"アイス食べてから考えればいいか。悪いやつなら引っ掻いてやればいい。噛みついてやればいい。
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