19人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
夏は、毎年祖母の家に遊びに行っていた。
しかし、祖母が亡くなってしまったため今年からはもう、行く事はないだろう。
縁側に座ると聞こえてくる、風鈴の音も。
蚊取り線香の懐かしい匂いも。
祖母が持ってくる冷えたスイカも。
夜になるとわざわざ浴衣まで着て楽しんだ、線香花火も。
もう、あの時は戻って来ない。
母の地元だったその地域は、縁側から海が見えた。
夕日が沈む様子は、いつ見ても感動的だった。
それを見ることも、あの潮の香りを嗅ぐことも、もう無いかもしれない。
「寂しいわね」
「……うん」
母は薄く笑ってそう言うけれど。
一番悲しんでるのはこの人だって、よく知っている。
「スイカ、食べようか」
「うん」
そう言って母が出してくれたスイカ。
「これ、お祖母ちゃん家のお隣さんがね、ここにわざわざ送ってくれたのよ」
「……美味しいね」
「そうね。甘くて美味しいわね」
母の目に涙が滲む。
一口齧ったスイカは、あの時食べたものと同じ味がした。
最初のコメントを投稿しよう!