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ハイボールのグラスに、水滴が伝って落ちた。
薄暗い店内には、あちこちから話し声や笑い声が響いていて、食器のぶつかる音や、有線放送の音楽
いろいろな音が混ざり合って、まさにガヤガヤという例えが相応しいと思った。
タバコや厨房から立ちのぼる煙が、暗めの照明を更に曇らせていた。
間仕切りで区切られた、半個室の座敷に、俺は駒場と向かいあわせで座っていた。
テーブルの上には、焼き鳥の盛り合わせ、生ハムのサラダ、おつまみセットに軟骨の唐揚げが並んでいる。
俺はグラスを口に運びながらスマホの画面をちらりと見て、
何の通知も無い事に、無意識にため息をついた。
「ここ、ちょっと前に芳賀と来たんだけどさぁ、飲み放題の割にドリンクが悪くないんだよなぁ。」
「…薄くないって事?」
「そうそう!基本、うっすいじゃん。飲み放題って。」
「あぁまぁ、確かに」
自分で割るともっと濃いめにするから、俺からしたらこれでも薄いけど、と内心思う。
箸でつまんだ唐揚げを口に運ぶ
コリコリした歯ごたえは心地いいけど、舌に刺さる様な塩気に、思わずハイボールを喉に流し込んだ。
並んでいる料理は、どれも味付けが濃いばかりで、
浅科さんが作った飯の方が上手いのに、
そんな事を考えてしまってハッとする。
「お前さぁ、」
「……は?」
「飲みに来てまでそんな面すんのやめろよなぁ」
「……、」
どんな顔をしてんだ、俺。
「何?何にそんな悩んでんの?」
「何って……」
客観的に見て、どうなんだろう
一回り歳上の会社員と〝付き合って〟いて、3週間ほどたつけど、目に見える進展は無くて、
自分ばかりが一方的になっている気がして、自問自答して悩んでいる
それって、第三者が客観的に見たらどうなんだろう
そう思って、酒の力もあってか、駒場に話してみようという気になった。
馬鹿にされる気もしないではないけど。
「…ちょっと前から付き合ってる人がいてさ、」
「あぁー。やっぱり?なんとなく、だろうなとは思ってたわ。大学の奴?」
「…いや、歳上」
「歳上ぇ?…あれ、いやちょっと待って、まず確認だけどさ、それって女?」
「いや、男。31歳の。」
「おっふ…いろいろすげぇな…!」
駒場が、レモンサワーを吹き出しそうになりながら相槌をうってくる。
「え、いつから?最近?…真木と〝別れて〟から?」
「はぁ?!」
予想外の駒場の言葉に、今度は俺が吹き出しそうになる。
「え?だって真木と出来てたんじゃねぇの?」
「はぁ?ふざけんな、口に瓶突っ込むぞ」
「でも何かはあったんだろ?あんなにつるんでたのに急に顔も合わせなくなったし。」
「……」
ふざけんなよ、
真木と〝出来てた〟だって?
出来るもなにも
あいつは俺を都合いいおもちゃだと思って利用して、
俺は自分の欲に流されただけの話だ
ただそれだけの。
そもそも、駒場がその事に感づいていたのが意外で仕方なかった。
「それはいいけどさ、別に。で、その付き合ってる奴の事で悩んでんの?」
駒場が、事も無げに焼き鳥に食いつきながら話を続ける。
こいつの、この軽さというか、あっけらかんとした態度に
今はなんとなく、有り難さを感じた。
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