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屋根の王子様
同窓会は楽しかった。
先生が帰った後、男女10名ほどでカラオケ店に行って、歌いたいだけ歌った。
「せっかくだから、大塚の歌も聴いてみたかったな」
大塚はちっちゃい頃から富岡歌劇団に憧れていた。
小学校に入る前からずっと、歌とバレエのレッスンを受けていたっけ。
高校卒業前、長い歴史を誇る女子だけの歌劇団に見事、合格したんだ。
「ルリはね、難病指定のカゲキ症に掛かったんだって。よく分からないけど、病気のせいで演劇を続けられなくなったの」
アンノは気風のいいやつで、こんな時には本気で相手を心配する。
たとえ彼女がかつて、大塚を不倶戴天の敵扱いしていたとしても。
俺はトイレでカゲキ症について検索したが、ヒット数0件だった。
機会を作って見舞いに行こう。
本人に会って聞かなければ、わからないことがありそうだ。
カラオケ店を出て、10時前には解散した。
俺は剣道部の元主将とアンノと3人で夜道を歩いて帰宅する。
途中から2人になった。
「ねえ、アンレイくんはまだ、ルリのことが好きなんでしょ」
返事はしなかった。
アンノが8年前と同じことを聞くなら、なおさらだ。
「こうしてるところを見られたら、わたし、お持ち帰りされてるみたいだよね」
「みたい? ガチに物理で持ち運ばれてるからな、お前は」
身長154センチのアンノは、俺の左肩に手を置いて半分ぶら下がっている。
「ねえ、ほんとうにお持ち帰りして」
俺は曲げていた左腕をまっすぐに伸ばした。
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