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アンノはアスファルトに足をつけると、俺から離れた。
「すっげえ魅力的な提案だけど。俺はアンノのこと好きだから、友達でいたいって言ったはずだ。やっちまったらぶっ壊れて、もう戻れないだろ」
彼女は胸を突き出すように、背中を弓なりに反らして俺を見上げた。
「やってみないと分からないじゃん。アンレイはしたことないんでしょ。今夜だけでも、なんならルリと付き合い始めた後でも、わたしは……」
きな臭かった。
彼女のことではない。
俺の口と喉、鼻の奥が乾ききって、匂っているのだろう。
胸のうちでは、アンノに対する怒りと、やりたい気持ちを同じだけ持っていた。
高校生の頃からずっと変わらない、やたら迷惑で、とても愛おしい女の子。
俺はそれでも、かつて大塚瑠璃を選んだ。
彼女だけを愛している。
アンノの気持ち――ここまでくると誠意だ――に応えると、3人の人が傷つく。
そんな重大事態、へたれの俺には耐えられそうにない。
「これでどうかしら?」
彼女がふたたび、腕にしがみついてきた。
いつの間に外したのか、下着がない!
俺はビフォアとアフターの、感触の違いに慄然とした。
拘束具を外した乳房は、双弾頭のハイパーマシュマロフェティッシュ爆弾だ。
「わたしの勝ち……でしょ?」
俺は理性をかき集め、臍下から突き上げてくる荒々しい野生に立ち向かう。
どうにも勝ち目のない、絶望的な籠城戦だ。
きっとあと数十秒で、男食いのアンノの完全勝利が決まる。
俺に出来るのは、最後の最後まで抵抗することだけ。
大塚への愛が真実であることを証明するため、1秒でも長く堪えることだけだ。
そこへ空から、声が降ってきた。
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