屋根の王子様

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女性の低音(アルト)と、男性の中音(バリトン)の境界くらいの声。 若く張りがあり、瑞々(みずみず)しい伸びがあった。 「もしもし君たち、そこで何をしているのかな」 俺はあらぬ方向から降ってくる声に向け、「誰だ!」と、叫んだ。 視線の先には、貴族出身の軍人、のような服装の青年がいた。 軍靴(ブーツ)を履いたまま、民家の瓦屋根(かわらやね)に立っていた。 「屋根(ヤネ)王子様(プリンス)! 今宵(こよい)、あなた様にお目にかかれるなんて」 「アンノ、誰だ? こいつ」 俺の言葉は完全に無視された。 アンノは「王子様(プリンス)」と呼んだ人物しか、目に入らないようだ。 しがみついていた俺の腕を離し、両腕を広げて、彼を迎え入れる体勢をとった。 「何者だ、のぞきも趣味が悪いが、服の……」 俺の声はとちゅうで宙をさまよって、フェードアウトした。 相手が「ふっ」と、消えたのだ。 気配がして背後を振り向くと、屋根の王子様(ヤネプリ)が身を屈めている。 王子は脱ぎ捨てられた下着(ブラジャー)を拾い上げて、俺に示した。 「女性(レディ)下着(おまもり)を外したのは、君かな? 庵堂禮(アンドレイ)君」 どうやら俺は、アンノを襲う痴漢と勘違いされているようだった。
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