19人が本棚に入れています
本棚に追加
女性の低音と、男性の中音の境界くらいの声。
若く張りがあり、瑞々しい伸びがあった。
「もしもし君たち、そこで何をしているのかな」
俺はあらぬ方向から降ってくる声に向け、「誰だ!」と、叫んだ。
視線の先には、貴族出身の軍人、のような服装の青年がいた。
軍靴を履いたまま、民家の瓦屋根に立っていた。
「屋根の王子様! 今宵、あなた様にお目にかかれるなんて」
「アンノ、誰だ? こいつ」
俺の言葉は完全に無視された。
アンノは「王子様」と呼んだ人物しか、目に入らないようだ。
しがみついていた俺の腕を離し、両腕を広げて、彼を迎え入れる体勢をとった。
「何者だ、のぞきも趣味が悪いが、服の……」
俺の声はとちゅうで宙をさまよって、フェードアウトした。
相手が「ふっ」と、消えたのだ。
気配がして背後を振り向くと、屋根の王子様が身を屈めている。
王子は脱ぎ捨てられた下着を拾い上げて、俺に示した。
「女性の下着を外したのは、君かな? 庵堂禮君」
どうやら俺は、アンノを襲う痴漢と勘違いされているようだった。
最初のコメントを投稿しよう!