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   *  浮気。  三年目の浮気。  いやいや、三年目もなにも昔から、黒峰さんはああだった。俺が会いたいとねだってもダメなときはダメ。「ごめん、無理」の一言で。もちろん次会ったときは「この間はごめんな」と言って、慰めてくれるし。……久しぶりに会ったときは、お互いすごく燃えるけど。  と考えたら、そうか昔からそうだよな、と変に気づいてしまっていた。  土日も毎週会えるわけじゃないし、平日だって帰りのひとときですら会えないことも多いし、絶対朝帰りはしないし。  ──……まさか内緒で奥さんいる、とか。  いやいや、まさか、それはない。  だって指輪もしてないし、そんなこと本人はもちろん、周りからも一切聞いたことはない。……でもそういえば、源田さんはお洒落で恋愛話を好む人で、よく飲みに遊びに行っているから、きっとフリーなんだろうなと思っていたら、うっかり既婚だったけど。  大体、なんで黒峰さんは俺なんかと付き合っているんだろう。  男同士で──俺はゲイじゃないけど、黒峰さんがそうなのか、そうじゃないのかも聞いたことはない。前に付き合っていた人がどんな人なのか、それがいつ頃の話なのかも。  そんなことを考え始めると、ため息が出る。  つい、また紫煙を吐くと同時に息を吐けば、ちょうどそのタイミングで喫煙ブースのドアが開かれて、それを聞き咎められていた。 「おお、悩ましげだな、大神。女でもできたか」 「…………」  この人に聞いたら、きっといろいろ分かるだろうな、とは思う。なにかと恋話に鼻が聞くというか、口を挟むというか、恋愛系噂話が好きなデザイン課課長の源田さんを見て。 「源田さん、それ、一歩間違えたら、セクハラですよ」 「そうか?」  全然こたえてない様子で、源田さんは使い込んだジッポライターで煙草に火を点けると、俺の方を見てにやりと笑った。 「俺はかわいい後輩のことが気になるんだよ」 「心配するなら、中野さんとか心配したほうがいいですよ」 「あれはダメだ」  売り言葉に買い言葉のノリで、営業課の三十代半ばで独身の先輩の名前を上げれば、源田さんはざっくりと一言で一刀両断した。 「中野はキャバクラで満足してるからなー。あれじゃあ彼女はできないだろうなあ」  ──あれ? この会話の流れはもしかしてチャンスなんじゃないか?  そう気がついて、俺は顔を上げる。声が上ずらないように、静かに口を開いた。 「……じゃ、じゃあ、黒峰さんは」 「黒峰か。あれはなあ、愛想もいいし可愛い顔してるし女の扱いもうまいし、その気になればいつでも女できると思うけどな。あいつにその気がないのがダメだ」 「い、いつぐらいから、彼女いないんですかねー?」 「──お? ご本人の登場だ。本人に聞いてみるか?」 「えっ!?」  源田さんの言葉に口から心臓が飛び出るくらいに驚き、俺は目を剥いて喫煙ブースの外を見やった。ブースを取り囲むガラスの向こうに見えるのは、すぐそばに設置された自販機の前に立つ黒峰さんの姿だ。 「っ、絶っ対、聞かないでください! 怒られます!」  慌てて声を控えながらも、そう源田さんに懇願して、俺は灰皿に煙草をねじ込んだ。  俺が黒峰さんの使いっぱなしレベルで仲の良い後輩であることは社内で認識されているので、俺が黒峰さんを恐れる様子はたぶんそれほど不自然なことでもなく、うひゃひゃと俺を見て源田さんが笑っている。彼が余計なことを言い出さないうちに、と俺は喫煙ブースを飛び出て、黒峰さんの隣を確保した。  喫煙ブースに俺がいたことには気づいていたのだろう、驚いた様子もなく黒峰さんはちらりと俺に一瞥をくれた。 「まーた、煙草吸ってんのか」 「……いや、またもなにも、さっき帰ってきたばかりだし」  ふうん、と興味なさそうに相槌を打って、買った缶コーヒーを手に黒峰さんが歩き始めて、その後ろをついて行くように俺も歩き出す。 「源田さんとなに話してたんだ?」 「……いや、なんか、たわごとです」 「なんだそれ」  俺の言いようが面白かったのか、くはは、と黒峰さんが笑った。 「おまえは年上に可愛がられるタイプだからな。源田さんにあれこれ構われてんだろ」 「それ言うなら、黒峰さんの方でしょ。……老若男女かまわずモテてるのは」 「モテてるってなんだそれ」  かなり本心からの言葉だったが、全然本気にしていないみたいで、また黒峰さんは笑う。  だって、と俺はむっと唇を尖らせた。 「出先の事務さんとか、物流課の新入社員とか、仕上課の松方さんとか、あと掃除のおばちゃんにまでバレンタインチョコもらってたでしょ」 「いつの話してるんだよ、おまえは。大体、三好さんにもらったのはその日のお菓子の余りで、バレンタイン関係ねーし」 「……ていうか、掃除のおばちゃんの名前まで知ってるのがすごいって」 「あのなあ、俺らの事務所をきれいにしてもらってんのに、名前も知らないなんて失礼だろー。おまえ、そういう細かいところに気が回らないからモテないんだよ」 「放っておいてください……」  というか、むしろ黒峰さんはもっと俺に気を回してください。  そう思ったが、言えば確実にまた笑われるだろうな、と口を閉じる。  黒峰さんは基本的に人当たりが良くて、面白くて、有能で誰からも好かれる人だ。  営業サポート課として、円滑に仕事を回すために、常にあらゆる部署、さまざまな協力会社とコミュニケーションを密に取って仲良くしているから、いざというときにはみんなが黒峰さんのために協力してくれる。そういう日頃の自然な根回しは、一方で営業側には頼もしく映り、営業からのサポート指名率はダントツ一位だ。……もちろん、個人仕事ではないので、指名したところで担当してもらえなかったりするわけだが。  そういう人を恋人にしている身にもなって欲しい。  しかもそれを公にして、余計な虫を寄せ付けないように〈俺のもの〉宣言もできないし。  なんだかなあ、とまた吐きたくなったため息を唇で押し留める。と、ふと隣を歩く黒峰さんが俺のことを見ていることに気がついた。 「──なんですか?」  いや、と軽く肩をすくめて、黒峰さんが視線を前に戻す。 「なんですか」 「〝便り〟、もうすぐ動くんだろ」  黒峰さんの言う〝便り〟とは、俺の得意先のひとつである製菓会社が二ヶ月に一度発行する商品パンフレットのことだ。サポートを担当してくれているのが、黒峰さんで。 「そろそろ印刷機混み始めるから、早めに作業伝票、回しておけよ」 「……はい」  有難いアドバイスに素直に頷いた。  けど、もちろん俺が欲しいのは、黒峰さんのそういう気の回し方じゃない。  ……恋愛の有効期限三年説を信じるわけではないけれど、最近特に黒峰さんがそっけないんじゃないかと思う。  もうすぐで、付き合って丸三年だ。  俺も黒峰さんもそういうところはいい加減で、日付けはしっかり覚えていないし、今までだってそんなことを記念したことはないけれど、三年前の九月の半ばの土曜日に開催された会社の親睦バーベキューの夜からだから、大体もうすぐだ。  ──記念デート、とか?  そんな発想をしてしまった自分に俺は恥ずかしくなる。いや、さすがに今さら、記念にレストランディナーとかじゃないだろう。でもせめて、居酒屋でもファミレスでもどこでもいいから、ゆっくり会うぐらいは望んでもいいんじゃないだろうか。  そんな希望を携えて、俺はメールで黒峰さんに声をかけてみた。  《今週の土曜とか、どっか飯行きませんか》  《中野のせいで俺、土曜出勤》  《じゃあ今日は?》  そして返事はまだ来ていない。 「…………」  仕事の繁忙期というのは人それぞれだ。  一般的にどこも忙しい年度末という繁忙期は当然あるとして、うちの印刷会社では製菓・食品関係の取引先が多いこともあって、中元・歳暮なども忙しく、九月はちょうど歳暮やクリスマスなど年末に向けての準備が動き出す時節だった。  もちろん商品企画や販促企画などはもっと前から動いているので、デザイン課や企画課はその前から忙しい。実際に印刷物などのかたちにしていく具体的な計画が動き出してから、営業やそのサポートチームが忙しくなる。  不幸なのは、営業が三十人以上いるにも関わらず、サポート課の社員は十人程度しかいないことだ。会社の取引先が実際は製菓・食品関係ばかりとは限らず、多種多様の企業があるため、営業は自分の担当する取引先の一年の動きで自分の繁忙期が見えてくるが、そんな様々な営業を担当するサポート課はいつだって忙しいという羽目になる。  仕方のない。それが会社というもので、社会というものだ。  分かっていても、恨めしい。 「おい、中野、俺にまず伝票回せって言っただろー。なんで生産管理に直接回してるんだよ。そのせいで問題になってるって認識あんのかあ?」  そして、仕事で絡める社員がうらやましい。……たとえ罵倒でも。  誘いを断られたメールのやりとりをしたその日の午後、一度会社に戻れば、同僚の営業がそんなふうに黒峰さんに叱られていた。  黒峰さんの席は、俺の席からデスクの〈島〉を間にひとつ挟んでいる上に、背中向けなので、結構遠い。その席の隣に立っているのは、三十半ば独身キャバクラ好きという噂の中野さんだった。中野さんの方が年上だと思っていたが、黒峰さんの遠慮ない言葉に、そういえば同期だったかもしれないな、と思う。  〈仕事は取ってくるが手配はいい加減〉で有名な中野さんは、へらへらと笑っている。 「いやー、黒峰も忙しそうだしぃ、なんか怒られそうだなあ、と思って」 「俺が怒らないでも、管理課が激怒するって思わなかったわけ?」 「だって黒峰の方が怒ったら怖いもん」 「……なるほど。俺に仕事が回すのが怖いと。ふうん。なるほど。そんなこと言うなら、もうやらなくていいんだな、〈J〉。俺以外に誰かがやってくれるんだな?」  〈J〉というのは営業一課管轄の中で第一級要注意顧客の頭文字だ。要求度が高いわりに値段を叩かれたり、終盤になってひっくり返されたり、電話の態度が横柄だったり、といろいろあって、他の社員からは電話さえ取りたくないと忌避されている顧客で、そのサポートは黒峰さんだからこそできる、というのが周りからのもっぱらの評判だ。 「…………すいませんお願いします」  あっさり観念して中野さんが黒峰さんの肘のあたりを掴んで頭を下げていた。  おまえ、これ以上、俺の黒峰さんの時間を奪うなよ!  と先輩に俺は訴えたくなった。もちろん口に出したりはしないが。  それからしばらく黒峰さんと中野さんはその席でずっと仕事の話をしていて、その間に何回か黒峰さんは中野さんを軽くこづいていたが、同期の気安さで単に仲良くじゃれているようにしか見えなくて、腹の底でなにかが煮えくりかえる。苛々と話が終わるのを待っていたが、中野さんが黒峰さんの席から離れたときには、俺が夕方の打ち合わせに出なくてはいけない時間が迫っていた。  資料と鞄を持って、出がけにぺらりと伝票一枚を手にして、黒峰さんのところへ行く。 「これ、〝便り〟の伝票。……忙しそうですね」 「中野のバカが余計な手間を増やしてきたからなー。客に確認も入れずに先に管理課に伝票投げて、無理矢理印刷機の予定入れさせて、案の定、今さら客から今回は予定変わるって話になって、もうバタバタだよ」  そんなふうに言われてしまうと、確認することでさえ、気後れしたくなる。 「……やっぱり、無理ですよね?」 「うーん、ちょっと今日は難しいなあ」  うん。分かっていた。分かっている。  有能な黒峰さんを頼る営業は多いし、忙しい。同じサポート課の鈴木カナも優秀有能だけど、彼女は万年忙しい大きな取引先のサポートを抱えているから、遠慮する営業も多いのだ。もちろん本来、サポートは個人にお願いすることではなく課にすることだけど。 「あ、おまえも〈慣れ〉には気をつけろよ」  黒峰さんの洩らした言葉に、俺は顔を上げる。 「何年か同じ仕事担当してると慣れてきて、つい油断して、ミスが起きたり、お客さんの意思をないがしろにしたりしがちになんの。おまえは気をつけろよ」 「……はい」  慣れは油断を生む。  それは仕事だけじゃないよ。と、そう思ったけれど、口にはしなかった。  お互いに仕事が忙しければ、同じ職場であることを利用して社内でコミュニケーションを取るしかない。  俺は少し遅くなった外回りの帰りに、コンビニに寄ってお菓子を買った。黒峰さんは酒も好きだが、甘いものも好きだ。今年のバレンタインも、社内のさまざまな女性陣から大小いっぱいチョコレートやお菓子をもらって、普通に喜んでいた。  さらに言うならチョコレートやクリーム系より、焼き菓子が好きだ。  だからコンビニで売っているフィナンシェを手に、すでに終業時間を過ぎて人が減り始めている営業フロアに戻った。  自席に荷物を置いて、ちらりと背中の方を振り返って──あれ? と思う。  サポート課の席に、黒峰さんの姿がない。というかデスクの上が片付いている。  時計を見れば、夜七時。  俺はこっそりフィナンシェを上着のポケットに入れて、なんちゃっての資料を手に、サポート課のデスクの〈島〉に近づいた。どうやら営業サポート課で残っているのは課長と鈴木カナと、あと数人のようだった。となれば声をかけるのはカナしかいない。 「鈴木、おつかれ。黒峰さんは?」 「うん? おつかれ。黒峰さん? あー、もう帰ったよー」 「────」  帰った? ……帰ったの? 忙しいって言ったくせに!?  なんでだあああ!! と暴れたい気持ちを、目の前の同期に悟られないように、俺はなんとか手にした資料を握りしめるだけで押さえ込んだ。 「なんか相談?」 「……まあ、軽く。でも明日でいいや」  もう完全に気力を削がれ、俺は力なくカナに返して、ふらふらと自席に戻った。  そんな状況では、当然仕事の効率も上がらない。どんどんと人が減っていく営業フロアで、俺は鬱々な気分で明日提出予定の見積をつくっていたが、結局途中で挫折して、煙草を吸いに席を立っていた。  だって全然分からない。忙しいと言って俺の誘いを断ったのに、なぜそんな早く帰っているのか。帰るなら帰るで言い訳のひとつでも、メールのひとつでも、どうしてくれないのか。……黙って帰るのは、俺に言えないようなことでもあるのか。  重い身体を引きずって喫煙ブースに行けば、そこにカナがいて驚いた。声をかけてから一時間以上が経っていて、席にいないのを見ててっきりもう帰ったのかと思ったのだ。 「おつかれ、遅いなー、おまえも」 「おつ。まあね。……あっ、ちょっと聞いてよ! さっき源田さんにまた『金曜の夜なのに帰らなくていいのか』って言われたんだよ。余計なお世話だと思わない!?」  相変わらず源田さんもセクハラまがいな──というか、完全にセクハラなこと言ってるな、と思いながらも、俺は妙齢女子の怒りを前に、かける正しい言葉を探した。 「……ほら、あれだ。源田さんも心配してるんじゃなの。鈴木がそんな仕事ばっかりだから、彼氏が寂しがるんじゃないかって」 「それが余計なお世話なの。彼氏が心配するから女子は仕事するなって? 時代錯誤!」 「いや、それが男か女か関係ないんじゃないか。やっぱり相手が仕事ばっかりだったら普通に寂しいし、心配になるだろ」  つい俺は本心から、そんなことを言ってしまっている。 「何年も付き合ってて、そういうこと言ったり、言われたりしてねーの?」 「……言われてない、わけじゃない」  カナが珍しく、大きなため息とともに肩を落とす。  一見して彼女は本当に勇ましいし、できる女だから、みんな彼女が強い女だと思ってしまうが、こと恋愛に関しては意外に弱いのだ。 「私はただ働いているだけなのに、向こうは私が働きすぎだってうるさいし。たまには早く帰って来れないのか、とか。なんで土曜日も仕事なんだ、とか。しょうがないじゃん、仕事なんだから。仕事には女も男も関係ないんだから」 「…………」  うっかり相手の方の気持ちに共感してしまいそうになって、俺は誤魔化すように煙草を口に運んだ。そういうことを言われるのはやっぱり困るんだなよな、とこっそり学ぶ。 「なに。彼氏、束縛系なの?」 「束縛はしてこないけど、ちょっと嫉妬深いかな。冬にさ、同期でスキー行ったじゃん。あと去年の夏のキャンプ? ああいうの、泊まりだっていったらすぐ真っ青になる。普通の合宿だろっつうの!」  俺もそのキャンプにもスキー合宿には参加しているが、黒峰さんは「おー、楽しんでこい」で終わった。それを、信頼されていると思うか、冷たいと思うかは、そのときの気分次第だ。……今思うと、ちょっと冷たいなあ、と思わないでもない。 「まあ、なんだ、愛されてる、ってことにしておけばいいかな……」 「確かに言われなくなったら、逆に気持ちが冷めたのかと怖くなるかもしれないけど」 「もう何年も付き合っていて、今もそうやって気にしてるってすごいんじゃないの?」  そうかなあ、とカナが呟く。  ……俺たちはどうだっただろう。少なくとも、嫉妬とかは分からないけど、付き合いたてのころはもっとメールをし合っていた気がする。もっとたくさん話をしていたと思う。  黒峰さんにないがしろにされている、なんて思いたくない。  でも会社で毎日会っているせいか、こんな状況でも全然、不安も危機感もないみたいだ。  別に俺だって、黒峰さんの浮気とか内緒の妻とか、本気で疑うわけじゃないけれど、俺だけがこんな不安でいてもたってもいられなくなっているのかと思うと、ひどく苦しい。  このままじゃダメだ。このままじゃダメなんだ。 「まあ、かといって、ずっと付き合っていればいいってもんでもないけどねー」  ふとカナがそう言いながら、身体を起こしていた。  カナが灰皿で煙草を揉み消すのを見て、自分の煙草もほとんど根元まで灰になっているのに気がつき、彼女に続いて煙草を消す。そのまま連れだって喫煙ブースを出たところで、カナが大きく手を上げて身体を伸ばした。 「あー、早く結婚したーいー。いっそ、私からプロポーズするかなー」  そういうコメントに困ることを叫ばないでほしい。無言で隣を歩き出した俺をカナが呆れた様子で振り返った。 「そこで黙られると、私が痛いんですけど」 「……いや、俺にはなにも言えません」 「だってさ、仕事しすぎるなって言うぐらいなら、プロポーズしろって思わない?」 「いや、だから、俺にはなにも言えないって」 「意気地なし」  なぜか俺を詰って、営業フロアに戻るとさっさとカナは自席に戻っていった。相手は俺じゃないだろ、とうんざり呆れて、自分の席に向かいながら、ふと俺は立ち止まっていた。  それから、カナの斜め前にあたる黒峰さんの席を見た。
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