9.千日紅が咲く季節には

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丘にやってくると相変わらず草が生い茂っている空き地がそこにあった。 空き地横の階段を下りてそこから二・七五間、つまり5メートルほど進む。 膝のあたりまで伸びている草を蹴り払って目的地点まで来ると、そこの部分の雑草を軍手をはめた手で引き抜く。大体の範囲を引き抜いてその部分をスコップで掘る。本当にこんなところにあるのかと思いもしたが、取りあえず掘れるだけ掘ってみようと続ける。うるさいほどの蝉の声が耳を劈くなか汗ばむ額を拭いながら掘り進める。 その時、スコップの先にがつんと何か硬いものが当たった。 物が埋まっているところの土を掘って引っ張り出す。それは先程勇子さんの家にあった文庫箱よりは一回りほど小さい箱だった。見た目は黒と赤の和紙で包まれているので恐らく敏郎のもので間違いない。 土でかなり汚れているがそれを払って中を開いた。そこには萎れた押し花が入っていた。アルバムに挟まれていたものと同じような状態で茶色くなって形も崩れてはいるが、花びらからこれが千日紅だということはわかる。 沢山の千日紅の押し花。きっと敏郎が作ったのだろう。この前何となく教えた押し花の作り方がここで活かされるとは思ってもみなかった。 箱の中の押し花を手に取っていると底に紙切れが見えた。先程と同じだ。その紙切れを取ってみると文字が書かれているのが分かった。 "未来へ繋ぐ また会おう" 簡潔だが、力強いメッセージに思わず笑みがこぼれる。ここに埋めたのはあの丘が自分たちが出会った場所だからだろうか。そういえば、あの丘から落ちた時もあの時代にタイムスリップした最後の日に見た千日紅はなぜかそこにあったのだった。未だにあれがどういう意味だったのかは分からないが、もしかしたら過去と未来を結ぶ存在だったのだろうか。 自分たちにしか分からない場所に埋めることで未来の自分に忘れないように、また思い出すようにするためにこうしてこの千日紅を埋めたのだろう。 大丈夫だ、ちゃんとこの先の未来まで繋ぐよ。敏郎が生きた証を絶対に忘れないために。 次はこっちが過去に送り返す番だ。自分も千日紅の押し花を作らなければ。それまでこの押し花はここに置いておこう。 千日紅が咲く季節じゃなくても、この千日紅の押し花さえあればいつでも思い出せる。 萎れた押し花を箱にしまいこんで埋まっていた場所に返す。その時、吹いた風とともにどこからか赤い花びらが飛んできたような気がした。
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