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8.去り征く君を想ふ
祖父のいる和室に向かう。
香織も母も叔母も出払ったし部屋なら他の人間に聞かれたり邪魔される心配もない。今片手には例のアルバムがある。これはこれからする話と、自分が知りたいことの鍵となる証拠だ。一旦深呼吸をして、襖の外から声をかける。
返事があったので開けると六畳ほどの和室に年季の入った文机で読書をしている祖父と目が合った。
暗い色の塗り壁と干し草のような畳の匂い、祖父の背後の雪見障子から差してくる光がこれからする話に若干手に汗握っていた感覚を落ち着かせる。密談と言うほど聞かれてまずい話ではないのだが、理由が理由だけに穿鑿は余りされたくない。祖父が手招いて「とりあえず座ったらどうだ?」と言って座布団を置く。それに従って座布団に座ると向かい側に座っている祖父と距離が近く、柔らかい雰囲気なのになんだか緊張してしまう。
祖父はいつもと手にしていた書物を文机に置いていつもと変わらぬ様子で「啓太、どうかしたのか?」と尋ねてきた。
「じいちゃん、少し訊きたいことがあるんだけどいいか?」
「ああ、いいぞ。」
「啓太が訊きたいことって珍しいなぁ」などと朗らかに笑う。おおよそこれからこちらがする質問を想定していないようだった。
「今朝香織がじいちゃんの若い頃の写真欲しいってアルバム見てただろ?そのアルバムから30年くらい前のじいちゃんと女性が写ってる写真があったんだけど、この女性の顔、昨日見たじいちゃんの海軍時代の写真で隣に立ってた志木っていう男と似てるから気になっているんだ。」
アルバムを文机の上に広げて例の2つの写真を取り出す。そして女性と敏郎の顔を並べて見せると、祖父は先程までの朗らかな笑みを絶やして眉を顰めた。
「俺、この女性の背景見たことがあるんだ。えーと…どこで見たかはちょっと言えないんだけど、この背景ってこの近所にあった家のだよな?この時のじいちゃんは今から30年前で60代だから定年してこっちに引っ越してきたのもこれくらいの時期だったよな。一緒に写っているってことはこの女性とじいちゃんは知り合いだってことだ。」
祖父は何も言わなかった。一旦話し終わると沈黙が部屋に訪れて居た堪れない気持ちになる。しかしそれを堪えて話を続ける。ここからが話の核心だ。これに関してはほぼ確信していると言っていい。
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