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閑散としている田畑横の道を抜けて街へ出てからバスに乗る。
上野で降りてそこから都電の上野線と本通線を使って日本橋へ行く。電車を降りてからは志木家周辺とは余りに違いすぎる光景に少々気後れする。都市部なのだから賑わっているのは当たり前だし、元いた時代でも日本橋は来たことがあった。しかしこの時代の街並みとはかなり違うのでまるで全く違う場所に来たかのような気がするのだ。
公道にはたくさんの車が走り和装洋装をした人々が行き交い、近代的なビルディングが立ち並んでいる。この街全体の一瞬一瞬の景色がフィルムに収められた映画のワンシーンのようでひとたび不思議な感覚に陥ってしまう。かつては液晶越しにしか見られなかったこの光景を直接まぶたに焼き付ける日が来ようとは誰が思おうか。
茫然と目の前の景色を眺めていると「行くぞ」と敏郎が歩いていくので慌てて付いていく。人混みを抜けてしばらく歩くと近代的な建物が見えてきた。百貨店だ。
入口にお洒落な洋服に身を包んだ若い女性たちが立っている。案内嬢だ。エントランスの外装も元いた時代のものとは若干違っていて見慣れない光景に思わずきょろきょろ見渡してしまう。
「おい、勝手にどっか行ったりするんじゃないぞ。迷子になっても知らないからな。」
「ま、迷子って子供じゃないんだぞ…」
あまりに挙動不審だったせいか見かねた敏郎が呆れたように笑って言う。子供っぽく思われてしまったかもしれないと思うと恥ずかしい。
百貨店の中に入ると内装はかなり豪華で1階の売り場には装身具だったり服飾品だったりと高そうなブランド品が多くある。週末の午後だからか人の数も多く色んな年齢層の客が見られる。若い女性にはモダンな服装に身を包んでいる人が多くいて思わずそちらに目が行く。
「啓太、どこか行きたい場所あるか?」
敏郎から不意に話しかけられて一瞬思考が止まる。慌てて情報を処理して考える。行きたい場所と訊かれて数秒の黙考の後、すぐに答えは出た。
「俺、書店行きたいんだけどいい?」
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