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飼ってあげる 2
オレの隣に座っていた、うちでギターを弾いている千影(ちかげ)が、恐る恐る話しかけてくる。
「珀英・・・どうした?」
「ああ、緋音さんがこれから来るって」
「は?!え?!まじで?!」
年不相応に幼い顔の千影が、大きな目を更に見開いて大きめの声をあげる。
そういえば、こいつも緋音さんのファンだったっけ。
オレが緋音さんと付き合ってることは、メンバーにもスタッフにも言えないでいる。オレが緋音さんに付きまとって、緋音さんは後輩として親しくしてくれていると、みんなが思っている。
そんな状況なので、オレが緋音さんの名前を口にすることもあまりないが、今は言っておかないと来た時に騒ぐと思ったので、さらっと伝えたみた。
千影は、緋音さんには劣るが整った綺麗な顔立ちで、黒髪を肩先くらいに伸ばしている。大きめの茶色の目を開いて、眉根を寄せて、
「え?本当に?」
と再度確認してくる。薄い口唇が真剣に訊いているのがわかった。
「ああ、本当に来るって。打ち上げなんか来てくれるの、初めてかな」
「だよな・・・いや、ライブとか全然来る気配ないから、お前嫌われてんじゃないかって話してた」
「はあ?!」
「そっかー来るんだー。なんか緊張してきた」
え、嫌われて?!え、どういうこと?!そんなこと話してたの?!
千影を問い詰めようとした時、手の中のスマホが振動しながら鳴った。
瞬間で通話状態にする。
「もしもし、着きました?」
『ああ、着いたよ』
「早急に迎えに参ります」
『くすくす・・・待ってる』
緋音さんの可愛い声が耳元で反響する。
待ってるって!待ってるってやばくない?!可愛い、可愛い、可愛いだろ?!異常に可愛い?!やばいだろう、これ?!
悶(もだ)えながら電話を切って、すっくと立ち上がる。
「え、もう来たの?!」
千影がなんか言ってるけど、オレは全部無視して居酒屋を出て、3階から地上へと階段で降りた。
居酒屋の入っているビルから出ると、佇(たたず)んでいる緋音さんが視界に飛び込んできた。
初夏の過ごしやすい陽気になったため、緋音さんはジーパンに深い青のVネックのシャツを着て、上から黒いテーラードジャケットを着ていた。
そしていつものように、サングラスをかけたままスマホに目を落としている。
薄茶の瞳が日光に弱いので必ずサングラスをかけるようにしていたら、夜でもそのままかけているのが癖になったといっていた。
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