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飼ってあげる 5
千影は笑いを堪(こら)えて、それでも息も絶え絶えな状態で、テーブルに並ぶ料理を指さした。
「唐揚げとか・・・ピザとかありますけど?」
「こんな時間に、そんな油っこいの食べたらお腹壊すからダメ」
千影の言葉にオレが瞬殺で答えると、千影は更に笑いが止まらなくなっている。
緋音さんは、オレが取り分けたものだけを食べながら、不思議そうに千影を見ている。緋音さんにとって、オレが用意したもの、取り分けたものだけを食べるのが習慣になってしまっているので、あれ食べたいこれ食べたいは言わなくなっていた。
「緋音さんの食事って・・・全部お前が管理してるの?」
笑いながら苦しそうに千影がオレに問いかけた。
そんなことを今更訊かれるとは思っていなかったから、ちょっと不思議に思いつつ、普通に答えた。
「ああ・・・全部じゃないけど、8割くらいは。アレルギーはないけど、好き嫌い激しいし、お腹弱いし、結構大変」
「・・・好き嫌いは・・・減ってきたし!」
緋音さんがちょっとドヤ顔で言う。
そのドヤ顔も本当に可愛くて、茶色の瞳を見開いて、得意気に胸はって、薄紅いの口唇が笑って、全体的に上から見下す感じでオレを見る。
オレはそんな緋音さんが可愛くて、可愛くて。くすくす笑いながら緋音さんを見つめた。
「ほぼ食わず嫌いでしたもんね」
「お腹だって、強くなってきたし!」
「よく噛んでくれるようになって嬉しいです」
「むぅ・・・」
自分が食に関しては酷(ひど)い状態だったのをわかっているので、ここだけはオレの言うことを聞く緋音さんは、何も言えなくなっている。
ちょっとむくれつつ冷奴(ひややっこ)を一口食べる。
千影は相変わらずお腹を押さえて笑いを堪(こら)えている。
「飯(めし)の管理できるほど、そんなしょっちゅう会ってんの?」
千影が口にした疑問に、緋音さんが大げさに反応してしまって、口の中に食べ物がある状態で何か言おうとワタワタし出す。オレは緋音さんがうっかり倒しそうになったビールを救出する。
「いや・・・その・・・それは・・・」
オレは緋音さんが下手なことを言い出す前に、緋音さんを押さえて答える。
「家が近いから。オレが自炊した料理持って行ったりしてんだ。でないとまともな食事しないからさ」
本当は家は近くない。電車で20分くらいかかる。
オレが軽く嘘をついて、それっぽく疑問に答えると、緋音さんはほっとしたように肩を下ろした。
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