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飼ってあげる 1
*
TRRRR・・・TRRRRR・・・
テーブルの上の置いたスマホが震えながら鳴った。画面には緋音さんの名前が表示されている。
え?!なんだろう、珍しい・・・。
スマホを持って通話をONにして、スマホを耳に当てた。
『もしもし?』
「もしもし、お疲れ様です。どうしたんですか?」
『ああ、お疲れ。今からそっち行っていい?』
「え?!」
耳元で聞こえる緋音さんの声にオレは思わず上擦(うわず)った声で叫んでしまった。
今日はオレが所属しているバンドのライブで。いつものようにライブをこなして、打ち上げに居酒屋に来ていた。
事務所のスタッフやら雑誌関係者やら友達やらが集まってて、大体30人くらいでお座敷を貸切にしている。
朝まで営業しているお店を予約するのが普通なので、緋音さんに会えるのは明日の夜かなーとぼんやり考えていたところだった。
時刻は深夜12時になろうかというところ。だいぶお酒も進んでみんなが良い感じに酔っ払いで、寝てる人もいたりするそんな状況。
緋音さんはお仕事でライブに来れなかったのに、打ち上げだけでも来てくれようと思ってくれたらしく、いきなり電話してくれたみたいだった。
『何だよ?オレが行っちゃダメなの?』
電話から流れてくる声がいきなり不機嫌になる。
「いえ、そうじゃなくて、もうこんな時間だし、疲れてるだろうから、無理して来なくても・・・」
『別に無理してないし。・・・なかなか行ってあげられないから・・・』
「そんなの気にしなくていいですよ。それよりも」
『・・・会いたい』
「今すぐ迎えに行きます」
オレは思わず立ち上がって宣言した。
早く帰ってゆっくり休んで欲しいと、言おうと思っていたのに。
唐突(とうとつ)にそんな可愛いこと言うから!!
なんでいきなりそんな可愛いこと言うかな、もう!!
立ち上がって迎えに行く気満々でいると、電話越しに緋音さんが笑っているのがわかった。
『とりあえず店教えて』
「あ・・・恵比寿の駅前の居酒屋で。後で地図送ります」
『恵比寿なら近いな・・・じゃあ地図送って』
「はい、早急に」
『店の前に着いたら連絡するから。迎えにきて』
「必ず行きます」
『よろしく』
緋音さんはくすくす笑いながら電話を切った。
オレはこれはよくできた夢なんじゃないかと思いながら、お店の地図を緋音さんのLINEに送った。
とりあえず落ち着こうと再び座って、飲み途中のビールを一口飲む。ビールの冷たさに一旦冷静になる。
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