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 母はクロエのリードを私に持たせた。そして、もう1本リードを首輪につけた。 「リードは2本?」 「そう、ママも持つの」 「ぼくだけじゃダメ?」  平凡な母親ならこう言うだろう。 「あなたにはまだ無理よ」とか、「ちゃんとひとりでできるの?」とか。  もし、そう言われてたら、私のリードを持たせてもらうという特別な高揚感は、一瞬で萎えてしまい、散歩は台無しになったことだろう。  だが私の母は、こう言った。 「いつもと違うことをする時は、常に最悪の事態を想定しておかなければならないの」  あえて難しい言葉を使ったのだろう。この一言で、私がリードを持たせてもらうことの特別感はさらに増幅された。私と母はそれぞれリードを持ち、大はしゃぎのクロエを真ん中に、散歩に出発した。
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