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 空港まで迎えにきたことに驚いたのか、久世はおれを見て少しだけ目を丸くした。  作家だったころ何度か雑誌に顔が載ったことがあるので、念のためにサングラスをしてきたのだが、久世にとってみればそんなものは顔を隠していることにならないらしい。大きい荷物を久世から半分受け取り、「お疲れ様。食べたいもの何でもたべさせてあげるよ、何がいい?」と問いかける。 「日本食ならなんでも」  驚いていたのは一瞬だけで、すぐにいつもどおりの久世が唇の端に笑みを浮かべて言った。 「なら寿司だな。車で来てるからついてきて。一旦家に荷物置いてから行こう」  久世だ。隣にいるだけで、血が湧きたつ。あのなめらかな低い声が、どんな女の喘ぎ声よりもおれを興奮させる。 「仕事は休みなのか」 「ああ。さすがに日曜ぐらいはね」  作家業をやめてから、フリーのコピーライターとして働いている。仕事はハードだけれど、時間の自由がきくし稼ぎがいいので、当面はこの仕事で食っていくつもりだ。  助手席の久世は何か言いたげな表情をしたが、腕を組んだまま目を閉じた。言うのをやめてくれたらしい。まことにありがたい。久しぶりに会ったのに説教をされるなんて時間がもったいない。 「時差とトレーニング疲れでちょっと眠い。お前の家で寝かせてくれよ、1時間ぐらいでいいから」  あくびをした久世は、おれの返事がイエスであることを疑うことなくそのまま眠ってしまった。 「掃除したから大丈夫だよな」  ついさっきまでいつもの「子どもの習い事の間にセックスを愉しんでいる人妻」と火遊びをしていたので逡巡したものの、シーツも洗ったし掃除もしたから問題ないだろう。久世は異常に鼻が利くが、おれの過激な女遊びについて物申したことは一度もない。おそらく興味がないのだ。幼馴染としての成松新自身にしか。 「………、暑い」  古いビートルに乗っているので、エアコンの効きが悪い。小刻みに車体が揺れるし、燃費も最悪だが、人をのせるために買った車じゃないので我慢してもらうほかない。  窓を開けて風をいれる。険しい顔をしていた久世の横顔が、次第にゆるんでおだやかな寝顔になる。  眠っていても意思の強さを感じさせる真っすぐな眉。直線で構成された、どこか野性味のある久世の顔は、横顔がもっとも見つめやすい。正面からだとあまりにも視線が強くて心を見透かされそうで、目をそらしてしまいたくなる。  彼のコンプレックスである青い眼は、言葉よりも多くを語る。その眼はこう言っていた。さっき迎えに行って目が合ったときからずっと。 ――お前はまだ逃げているのか。おれに理由も言わないで、逃げ続けるのか、と。
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