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月を捕まえて
七月のとある夏の夜。その日は、茹だるような暑さで寝苦しかったのを覚えている。
「先輩……? どうしたんですかこんな時間に」
時計の針は0時のあたりで長針と短針が重なりそうだというのに、電話越しの彼女の声は愛おしいくらいに溌剌としていた。
『ねえ詩織。今から海行かない?』
「……また唐突ですね」
『だって今日暑いじゃん』
「エアコンつけたらいいじゃないですか」
『つけてるけどさ〜……そういうんじゃなくて……』
「ていうか外に出る方が絶対暑いですよ」
しばらくの無言の後、間の抜けた声が返ってきた。
『……さすが詩織ちゃん、頭いいね……』
「はあ。まあいいです。着替えますから、迎えに来てくださいね」
電話を切ってベッドから出る。もうすっかり目は覚めていた。
「……あ、服どうしよ」
さすがに部屋着のままで出たくはなかった。別に明日香先輩に部屋着を見せたくないわけではなかったが、突発的なデートとはいえある程度可愛い格好をしたい。それは単に可愛い自分を見て明日香先輩に惚れ直してほしいという気持ちから来るものだった。
「海、か……」
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