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「先輩に情緒を求めたのが間違いでした」
周囲に響かないように、昼間より気持ち優しめにドアを閉める。
「でも持ってたんだね、そんな服」
「先輩といつか行く機会があるかもって、思ってたので」
「え?」
「いいです、別に。早く車出してください」
少し拗ねてみる。どうせキスすればすぐ機嫌直るとか思ってるんだろうな。
否定できないのが、憎たらしいけど。
「詩織、かわいいしスタイルいいんだからそういう服も似合うと思うな〜。もっと自分に自信アリな服装していいと思うよ」
私はそっぽを向いて窓の外を眺めた。
「耳、赤くなってるよ〜」
ここで反応したら負けだ、と思いしきりに無視を決め込む。まあ、でも……。
明日香先輩がそう言うなら、こういう服を着るのも悪い気はしなかった。
それから明日香先輩はにこにこしながら車を走らせた。運転中は私の何でもない話に耳を傾けながら、海沿いの道を軽快に走っていく。
「それにしてもどうして急に海なんかに? しかもこんな夜中から」
「んー、そうだなぁ。今日は月を捕まえたくなった」
大の大人が月を捕まえに海に行くなんて、普通の人が聞いたらどう思うだろう。
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