月を捕まえて

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「やめて……」  先輩に後ろから抱きつかれた。まるで、親にもう一生会えないくらいの勢いで抱きついてくる子どものようだった。それは、まさにあの日の私と同じだった。  忘れもしない、あの人が私を捨てた日。私はまだ六歳で小学校に入学する前だった。幼い私は、お別れの意味もわからず、またいつものように会えると思っていた。だが、入学式にあの人は来ず、私のランドセル姿を見ることもなかった。あの日、私は大好きだった人に見捨てられたんだと思った。  明日香先輩は優しく、それと同時に私を離すまいときつく抱きしめていた。そうしてひとつひとつ言葉を紡いでいった。 「詩織はさ……怖いんだよね? わたしが詩織のお父さんみたいに、詩織のことを見捨てるんじゃないかって。でもね、詩織。みんながみんなあなたの下から離れていくわけじゃないし、もし離れたとしてもそれはあなたのせいじゃないんだよ。みんな自分勝手な生き物だからさ、自分のことしか考えてないんだ」  先輩は私と向かい合わせに立って、私の両手を取って優しく握った。
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