月を捕まえて

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「大丈夫、わたしはどこにも行かない。わたしはずっと詩織と一緒。もし詩織がわたしの下を離れて行っても、わたしは絶対詩織を捕まえてみせるから」  そうして明日香先輩は、足元の水を掬って私に差し出した。 「ほら、月だって捕まえられる。月は今、わたしの手の中。詩織、言ったでしょ? 月を捕まえられたら、二人の愛は永遠だって」  月が、明日香先輩の姿を照らしていた。夜なのに、先輩の姿は私の目には十分すぎるくらい眩しかった。ああ、そうか。私はずっと、光を探していたんだ。 「ごめんなさい、明日香先輩。少し意地悪を言ってしまいました」  あの頃と同じように、夜の暗闇で泣いていた私に手を伸ばしてくれたのは、優しく光となって導いてくれたのは、紛れもなく明日香先輩だった。一度消えてしまった光だからこそ、今度こそは絶対に捕まえたい。そして放したくない。私は明日香先輩に抱きついていた。 「私も、怖いんです。明日香先輩が私より先にいなくなるのが。そして私が明日香先輩より先にいなくなってしまうのが。ずっと二人でいたいのに、運命が、それを許してくれない気がして」
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