邂逅というより仕組まれた再会

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「うん。優しすぎて心配になっちゃうけど、でも、自慢の父親だよ」  明日香先輩は誇らしげに胸を張る。そんな風に言える父親がいるのが羨ましかった。  私の父はどんな人だったのだろう。記憶の中の父に悪い印象は無い。むしろ私も優しくしてもらっていた気がする。  それならどうして、父さんは母さんを、私を捨ててどこかに行ってしまったのだろうか。 「詩織?」  明日香先輩に呼ばれて、薄暗い思考から引き戻される。休日ということもあってか駅は人の往来が激しく、行き交う人々の声と足音が響いていた。その音に思考を巡らせていると、自然と少しずつ自分を取り戻していけるような気がした。  立花家の車のトランクに二人分のスーツケースを並べて、私たちは後ろの席に座った。車内では、最近夜は寒くなってきたとか今日は晴れて良かったとか他愛のない話をした。途中、飲み物はいるかと聞かれ、有り難くコーヒーを頂戴すると、明日香先輩が飲めもしない私のコーヒーをせがんで案の定しかめっ面をした。  私も立花家の一員になれたようで、家族になれたようで、本当に楽しい時間だった。でも、心の奥底に暗い気持ちが立ち込めるのはなぜだろうか。
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