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「着いたよ、詩織ちゃん。それじゃあまた後で」
ありがとうございました、と一礼して、先輩たちに別れを告げる。車が角を曲がるのを見届けてから、私は一週間分の着替えが入ったスーツケースを引っ張ってアパートの階段を上っていった。一週間分と言っても、途中で洗濯を挟む計算をしているので、実質四日分くらいだ。
「ただいま」
鍵を回して家に入ると、狭い2DKの家のダイニングで母さんがテレビを見ていた。こちらに気づくと、私の方に駆け寄って荷物を持ってくれた。
「お帰りなさい、詩織」
母さんはにっこり笑って出迎えてくれた。少し疲れているようにも見えたが、こちらも長旅で疲れていたので、きっとそう見えるだけだろう。
「半年ぶりくらいね、どう?」
「こっちは変わりないよ。大学もまあまあうまくやってるし」
「明日香ちゃんは元気?」
「先輩はまあ、心配してたけど思ったよりは元気だったよ」
ふと、あの日のことを思い出す。雨の中、先輩は酷い顔で歩道橋から身を投げ出そうとしていた。それを止められたのは本当に良かったけど、そんなこと言えるわけもなく。
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