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「うん……でも、わたし、どうしようもない人間だよ。こうやって、わたしのことを想ってくれる人を簡単に傷つけちゃう」
わたしは空を見上げた。雨はまだ止まない。打ちつける雨が目に入る。
「それでも先輩は降りてくれました」
「怖くなっただけだよ」
「それでも、です」
詩織ははっきりとした瞳で、わたしの目を見据えた。まるで何もかも見透かされているみたいだ。
「……今日の空、まるでわたしの心みたいなんだ。ずっと前から、雨が降ってた。だから、死ぬなら今日かなって思ったの」
「……はい」
「だけどね、詩織の顔を見たら、なんか安心しちゃって。昔を思い出して懐かしくなって……そしたら、急に怖くなっちゃった」
詩織の大きな瞳が、ゆっくりと近づいてくる。詩織の瞳に映るわたしの姿が見えそうだ。
どんな姿をしているのだろうか。詩織の瞳に映るわたしは。
「明日香先輩。先輩の心に雨が降っているなら、私が傘を差します。だから、一緒にいてください。あの頃と同じように」
2人で過ごした、懐かしい日々を思い出した。あの頃は何をするにも一緒だったな。詩織がよくわたしの真似をして––––。
「先輩、なに笑ってるんですか。私そんなにおかしいこと言いましたか?」
「うん、言った。付き合って、なんて平常心じゃ言えない」
「私は本気です」
ぷくっと頬を膨らませる詩織は、愛おしくてかわいかった。さっきまで死にたかったのに、こんなにあたたかい気持ちになれたのは、きっと彼女のおかげだから。
「いいよ」
「え?」
「付き合おっか、わたしたち」
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