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涙に濡れたキスの味
「うわ汚ったな……」
私はシャワーを借りるために明日香先輩の家に来ていた。そこでいの一番に出た言葉がこれである。
「汚くないもーん。散らかってるだけだし」
「先輩、世の中ではそれを汚いって言うんですよ」
汚い、と言っても目に見えてゴミが散乱しているわけではなく、主に本棚にしまわれずに出しっぱなしになった本や、何が入っているのかイマイチわからない段ボールが置いてあるとか、洗濯物が畳まれずに放置されている感じだ。
だが、一縷の不安を覚えた私は、キッチンとリビングのテーブルをすぐに確認した。しかし、その不安はすぐに払拭されたので私は胸を撫で下ろした。
「明日香先輩、お酒あんまり飲まないんですね」
「んー、あんま強くないし美味しくないしね。あ、でも……」
明日香先輩は言葉を切って私の方に向き直った。
「詩織が二十歳になったら、一緒に飲みたいかな」
少し恥ずかしそうな顔で、でも先輩は笑っていた。
「まあ、わたしがそれまで生きてたら、だけど」
明日香先輩の笑顔が一瞬で悲しそうな、どこか自嘲したような風になった。先輩にそんな顔させたいわけじゃないのに。
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