アクアリウムの恋人

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◇ ◆ ◇  泳ぐイルカのイラストを背景に、静かな(りょう)を求めて、アクアリウムへ。夏季限定イルカショー開催中、とのキャッチコピー。  我ながらシンプルで分かりやすい、と、ポスターは館内の至る所に掲示されており、思わずほくほくとしてしまう。 「やっぱ、このポスター最高ですね」 テラスデッキ、イルカプールの観客席に睦月くん。 「デートにも水族館を選ぶって、よっぽど好きなのね」  あの日から、ゆるく妨害されていた水族館(アクアリウム)での仕事と癒しは、いまや私生活まで侵食しつつある。 「僕との事、考えてくれましたか?」 半屋外のデッキには秋を予感させる、気温より冷たい風が抜けた。 「うん、考えたよ。お互いの知らない(いろ)を見せ合うのは良いことばかりじゃない……けど」 「けど?」 人を包み込むようなおおらかな雰囲気に呑まれそうになる。  私のタイプは年上で、落ち着いてる人。ポジティブの塊みたいな眩しい笑顔を浮かべる男性は得意じゃない。  得意じゃないのにーーー。 「睦月くんの(いろ)はもっと知りたいと思った、よ?」 「お互いの(いろ)を見せ合う関係?」 「そう、言う事になるかな……、でも、嫌になるかも」 濁った色を残した前の恋。次は鮮やかになる、なんて確証はない。 「そんときは、2人の色を混ぜるように話し合って、新しい色を見つけましょう」 「睦月くんは……凄いね、返事がいつも想像を超えてくる」 「それは良い意味で?」 「もちろん、良い意味で」 「じゃあ、これからーーー、 ―――これから、思い出も色も2人で増やしましょう」  手が重なって、視線が絡み、そのままゆっくりと引き合う。夏と秋が混ざった風はプールの水面にさざ波を呼んで、私たちを包んだ。  プールサイドで飼育員の声が響く。  ふれた唇を離し、水が跳ねた音を目で追うと、クリアブルーの空をイルカが弧を描くように飛んだ。 END.
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