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畑野修が代理出産で作った二人目の子どもが、偽物らしい。
そんな事を言い出したのは他ならぬ畑野修本人だ。
最初に違和感を覚えたのは納児された瞬間だった。子どもの顔を一目見て、自分達には似ていないと思ったらしい。生まれたばかりでまだ顔がはっきりしていないせいかと思ったものの、月日が経つに連れて違和感はますます大きくなるばかり。
畑野が言うには、血のつながった子どもには当人同士にしかわからない目に見えない絆のようなものがあるのだという。親近感と言い換えても良いかもしれない。最初に生まれた長女にはそれがあったにも関わらず、二人目の長男には一切感じられないというのだ。
「なんて言えばいいんでしょう。同じ部屋にいても、長男だけ赤の他人がいるような感じなんですよ。わかります? なんだか落ち着かないような。家族だったらそんな事ないじゃないですか」
週刊誌の取材に、畑野はそう答えていた。
「多分向こうも同じだったんですよ。君のお父さんとお母さんだよ、お姉ちゃんだよって言われて引き取られたけど、全然落ち着かない。そりゃあそうですよね。僕達もなんか変だなって思いながら抱いてましたし。だからずっと泣いてばかりでしたよ。ミルクあげようが抱っこしようが全然泣き止まない。本人からすると、早く本物のお父さんお母さんを連れてきて、怖いよー。なんて怖がってたんでしょうね」
ゾクリ、と背筋が凍る。まるで明司と一緒じゃないか。
畑野修の家でも最初は私達同様、違和感を抱きながらも長男の面倒を見続けていたらしい。しかしながらあまりにも埒が明かず、知人である医療関係者に相談したところ、第三者機関による遺伝子調査を進められたのだという。
ところがなかなか協力してくれる調査機関を見つける事ができなかった。表面上は受け入れたフリをしながらも、結果は納児時の検査証明書と同じ「両親と子は血のつながった親子である」という物を複製されるだけ。今や国策である代理出産制度に歯向かうような真似は、どこもやりたがらないのだという。
畑野は諦めずに知人のツテを頼って探し回った結果、ようやく本当の意味で協力してくれる研究機関を発見した。そこで再調査をしたところ、ついに畑野の懸念通り長男と畑野夫妻は遺伝子上も全くの他人であるという検査結果が得られた。現在はその結果を元に、国を訴える裁判を請求しているのだという。
「遺伝子なんてある意味人間の本能みたいなものじゃないですか。やっぱり本人同士にはわかるんですよね。検査なんて後付けみたいなものなんですよ。都合の良いようにどうとでも改ざんできますしね。そう考えると、素性すら明かさない代理出産の制度っていうのは、闇を抱えていると思いますね。一体どこの誰が生んだのか、本当に僕達の子どもなのかわからないわけじゃないですか。せめて受精卵を代理母の胎内に移植する瞬間まで我々両親には見せるべきですよ。そうでないとどんな不正が行われているかわからないし、実際に僕達のような目に遭う人たちも少なくないはずですから」
記事は代理出産の制度をそのものを否定する形で終わっていた。
「明司もこれと同じかもしれない、って言うんだね」
読み終えた一樹は、ため息とともに信じられないとでも言いたげに吐き出した。
私の腕の中では、相変わらず明司がほぎゃあほぎゃあと耳障りな泣き声を上げ続けていた。私はその顔をじっと凝視する。私ははっきりとした二重、一樹は奥二重だというのに、一樹は生まれた時からずっと腫れぼったい一重のままだ。小さな団子鼻に薄い唇。どのパーツを取っても、私にも一樹にも似ているとは思えない。
極めつけは、この違和感だ。どんなに抱いてあやそうとも、一樹が泣き止んでくれるとは到底思えない。私の心が、想いが、この子に通じるなんて無理な話だ。もう二月近くもこうしているのに、一切受け入れてくれようとしないのだから。一方で保育所では大人しく手のかからない子だというのだから、疑いようもない。この子は私達にだけ、懐かないのだ。
「あなたもおかしいと思うでしょう? 畑野さんのインタビュー読んで、同じように感じなかった?」
一樹がやってきて、私の腕から明司を受け取る。明司は何も変わる事なく、泣き続けている。
「少なくとも僕は……赤の他人とまでは思えないけど」
言葉とは裏腹に、その顔には困惑が浮かんでいた。そうだろう。もし私達が感じないとしても、明司本人はこんなにも拒絶反応を示しているのだから。あの記事を読んでからは、明司もまた「本当の両親を連れてきて。怖いよー」と叫んでいるようにしか思えなくなってしまった。
「急だけど、明日、休みとれない?」
「休みを? どうする気?」
「病院に行ってみましょうよ。楠先生に直接確かめるべきだわ」
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