納児

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 部屋に戻ってすぐ、明司の物を次々とゴミ袋に詰め込んだ。  服によだれ掛け、おくるみにおむつ、おもちゃ、哺乳瓶、ガーゼ、タオル、食器、布団、明司に関わるものは、今すぐ目の前から消えて欲しかった。ベビーカーもベビーベッドも、粉々にぶち壊してやりたかった。  あれは一体何だったのだろう。どんなに手を尽くしても一切私達に懐こうとしなかったあの赤ん坊は。あの子といた数カ月で、私達は心身ともに疲弊させられてしまった。  もっと早くこうすべきだった。今になってみれば後悔しかない。どうして無駄に頑張ろうなどと思ってしまったのか。あの子自身も私達を拒絶しているのは明らかだったのに。  私はこの部屋に明司が存在した痕跡を残さず消し去ろうと躍起になった。悪い夢から覚めたような気分だった。 「これも捨てる?」  ソファーのクッションを拾いあげた一樹に、うなずきを返す。時々明司の枕代わりに使っていたやつだ。  涙と鼻水を流し、顔中ぐしゃぐしゃにして半狂乱になりながら片付けをする私に比べ、一樹は不思議なほど冷静に、事後処理を進めてくれた。あれもこれもと私が見落としていたような実に細かいところまで気づいて、私達の部屋を明司が納児される前の二人だけの生活に戻すよう尽力してくれた。  翌日看護婦さんから貰った電話によると、明司は結果的に施設に預かって貰う事になったらしい。代理母出産支援センターに関連する医療施設であり、他にも似たような子ども達が預けられているから安心して欲しいとの事だった。今や明司は私達の手を離れて病院に戻ったんだから、そんな事を私達に言う時点でお門違いだと思うのだけど。  気になるのは、他にも似たような子ども達がいる、という発言だった。畑野修のニュースも影響しているのかもしれないが、どうも口ぶりから察するにそれ以前から少なからずあったようにも聞こえた。  代理出産で生まれたはいいが、明司同様に両親から返されてしまう赤ん坊は多数に登るのだろう。水面下ではとっくの昔に社会問題化しているからこそ、政府はそのたの受け入れ施設まですでに準備しているのだ。 「かわいそうな気もするな」 「本当にね。最初から本当の両親に送り届けておけば、こんな事にならなかったのに」  見知らぬ親に納児され、心細い思いをした挙げ句に施設に収容される子どもたちを思うと、胸が痛んだ。  明司も早く本当の両親の元に返してあげればいいのに。
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