時かける初恋

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 風鈴の音が思い出を連れてきた。 「ヒグラシが鳴くとね、風が無いのに縁側の風鈴が鳴ったんだ」 「なにそれ」  夏の夕刻の縁側。五歳下の幼なじみのユウカが笑った。 「子供の時の話だよ」 「ふうん」  夕凪の風鈴が鳴った夏。僕は初恋をした。  風鈴の音と共に現れた近所のお姉さん。空色のワンピースが似合う人だった。  近所に同じくらいの子がいなかったから毎日楽しく遊んでくれる優しいお姉さんにボクは夢中になった。  けれど、お姉さんに会えたのは五歳の夏だけ。たったひと夏の思い出だ。 「風鈴が鳴ると食べた筈の西瓜がもとの姿に戻っていたりした不思議な夏だったな」  ユウカは「ふうん」とだけ応えてヒグラシが鳴く庭を見つめていた。  ボクは西瓜を持ってきた母さんに聞く。 「昔、近所にお姉さんいなかった? 確かユウちゃんて名前の」 「なーに言ってるの。この辺りにあんたより年上の女の子なんていないよ。それどころか女の子はそこにいるユウちゃんだけだよ」  ボクは、ユウカを見た。  空色のワンピース姿のユウカがフワッと立ち上がってボクを見下ろし、笑った。 「やっと、気付いた?」  夏、風鈴の音で初恋が時をかける。
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