君の傷

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――ああ。  頭の中に、あの日がよみがえる。まだ幼さの残る凛久が、頬を染めて告白してきてくれた情景が。 「……俺の、せいなのか?」  思わずつぶやいた言葉を聞いて、凛久ははっとしたように顔を曇らせた。 「ちがう、あなたのせいなんかじゃない。もう関係ないんだから放っておいてよ!」  目をそらす彼は動揺しきりで、そわそわと足を小刻みに動かしてはコンクリートを蹴りつける。その様子は、本心じゃないと容易く俺に知らせていた。  知らず俺の足は一歩踏み出して、凛久との距離を縮める。  おびえる凛久は、かたくなにこちらを見ようとしなかった。 「……ちがう」  ぽつりとこぼれた言葉は、溶ける寸前の淡雪みたいに儚い。  また一歩踏み出すと、狭い路地ではあっという間に俺と彼との距離は無くなった。 「ちがう……」  ハァ、ハァ、と胸を喘がせ目を泳がせる彼を、じっと見つめる。 ――つぐないたい。  許されるなら俺が、彼の傷を癒したい。泣きじゃくりぼろぼろになった彼を見ていたら、自然とそう思っていた。無神経だった俺のせいで、こんなにも傷ついてしまった彼のために、できることなら何でもしてあげたい。  確信していたが、祈るような気持ちでもう一度聞く。 「俺が、君を傷つけたからなんだろう?」  そうだ、と言ってくれ。俺を責めてくれ。そうしたら俺は――。  しかし凛久は俺を押しのけて距離をとると、はげしく頭を振った。 「ちがう! 僕が勝手にやったことだ。だからあなたは気にしなくていい……っんッ」  彼が言い終わる前に俺の手は勝手に凛久を引き寄せ、その唇に食らいついていた。  涙の味がする柔らかなマシュマロみたいな弾力を夢中で食む。少しあいた隙間に俺の不躾な舌をねじこみ、おびえる舌にからみついて甘く滑らかな感触を思う存分に味わった。  そうやって凛久と口づけていると、胸の奥から覚えの無い暖かいものが湧き上がってくる。  ああ、俺はやっぱり、これが好きだ。  凛久が――好きだ。  凛久が欲しい。もっと欲しい。  全部を自分のものにしたい……。  彼の腰を引き寄せ足を割り、密着するように抱いた手を強くする。一度は唇を離すが、ぽってりと赤く腫れたそれから離れがたくて、もう一度口づけた。  どれくらい凛久を味わっていただろうか? チュッと音を立てて離れた俺たちの間に銀色の糸が引いた。
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